ワンルームマンションがやってきた

ユーザー 木の家プロデュース 明月社 山岸飛鳥 の写真

 ワンルームマンションの設計の仕事がやってきたのではない。我が家の真ん前に、ワンルームマンションがやってきたのだ。
 私は木造の一戸建ての仕事しかしないので、普段はそんなに近所に迷惑をかけることもなく、日照権やら眺望権やらでもめることもない。それがまさかの 逆の立場での近隣問題である。
 地元密着の工務店が買い取った土地だったので、まさかあまりに酷い計画はしないだろう、と近所では噂をしていたのだが、どうしてどうして、なかなか背の高いワンルームマンションの計画と相成った。
 
 私が住むマンションの南側はそんなに広い敷地ではない。しかもその南側の道路は幅8mなので、計算上はたぶん6階建てくらいだろう、と高をくくっていたのである。ところが、なんと9階建て。当方は8階建てなので、完全にふさがれてしまった。

 最近、近所を歩いていてもワンルームマンションの新築が多い。若者がどんどん減っているのに、なんでワンルームばかり増えるのか不思議ではあるが、実際に統計を見ると増えているようだ。上の図は富国生命の資料から引用させていただいた。(http://www.fukoku-life.co.jp/economy/report/download/report_VOL267.pdf)
 貸家だけが増えており、その多くがワンルームなのだという。では、ワンルームに住みたい人が多いのかというと、そういうわけではない。下の図も同じサイトからお借りしたものだが、空き家も増えているからだ。それはそうだろうな と納得だが、ではなんで作るのだろう?

 ひとつには低金利すぎて銀行に預けているよりマンションでも作ろうか という金持ちがいることと、もう一つはワンルームマンションが建てやすくなったからではないかと思っている。
 ワンルームというのは一部屋が小さいので、建物全体も1フロアが小さくなる。そうすると、階数を高くしなければ採算がとれないということになる。我が家の前のように、敷地に余裕がなく道路も広くないと普通は道路斜線という規制で高さも制限され、採算がとれないから止めとこか、という話になる。
 
 ところが、13年前から天空率という制度ができて、ワンルームマンションのような細長いビルは高く建てられるようになったのである。

 左のように横に長い建物は天空率のメリットがないので、道路斜線のほうの規制を使って建てる。しかし、右のように細長いと、道路から見た時に空塞ぐ面積が小さいから高くしていいよ、というのが天空率。 下の丸が、道路の反対側に魚眼レンズを置いて空を撮影した図。たしかに、細長いと空は塞いでいない。
 
 しかし、この天空率は、裏の家のことは考えていない。いくら細長くたって、目の前に高いのが立ってしまえば、光は入らないし景色も見えない。
 やはり、ホントは需要もないうえに人迷惑な建物の設計じゃなくて、住む人にも周りの人にも喜んでもらえるような家を設計したいもんだなあ、と改めて思う次第である。