渡辺篤史の建もの探訪ー全室 富士山ビューの家(窪田勝文、窪田建築アトリエ)

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感想: 

いよいよ年末。
今年も大掃除もそこそこに、お正月のお華を生けてほっとした。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「全室 富士山ビューの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/47
富士山にまっすぐ対峙した家。
 
             ◇ ◇ ◇
 
鉄とガラスとコンクリート。
研ぎ澄まされたシンプルな構造、奇抜な外観。
キッチンや食卓、ソファーまでもが統一された特注品で、
それらはピタリと鋭い。
洗練されたその建ものに圧倒され、
住みこなしていらっしゃるそのご家族の暮らしぶりに感心した。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
田畑が広がる地を横切る2車線道路沿いに、
近未来のシェルターのような白い建ものがポツンとある。
水晶がモチーフという。
細長い平行四辺形のこの建ものの片側の先は、
ツンと水晶の先のような形になっていて、
そこに入れられた三角の切り込みが入り口だ。
砂利でぐるりと囲われ、水面のように打たれたコンクリートがアプローチ。
そのコンクリートと砂利は、入り口に吸い込まれるように玄関扉の中まで続いていた。
 
奇抜なデザインの入り口だけれど、
中はとてもシンプルな構成になっている。
敷地の高低差を生かしたスキップフロア。
細長い箱の半分は一層、半分が2層に分かれる。
玄関とリビングのある層が中間層となり、
そこから1メートルほど上がるとダイニングとキッチン、
下がると寝室、子供部屋、水廻りとなる。
 
リビング層とダイニング層との間は斜面になっていて、
そこに鉄の板で階段がつけられている。
水晶のモチーフが中にも取り込まれているような、
そんな斜面だ。
 
そして3層どの部屋も、富士山が見える側は全面ガラス張り。
富士山のある景色を、全身に受けて暮らすのだ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
洗練された建ものの美しさを感じながらも、
無機的な建ものに暮らすということを、
私はどこか受け入れ難いような気持ちで番組を見ていた。
 
角の鋭い鉄製の階段板、食滞、キッチン、
なんとかゴムとかいう素材が貼られた床、
ガラス張りの大きな開口、、、。
番組内で「美術館のような」という表現で紹介されていたが、
その言葉がとてもしっくりとくる。
どっしりと大地に身を委ねるような気持ちになる木造の建もの、
有機的な形を持った建ものとは一味違って、
どこか非日常的な感覚を受ける建ものだ。
たまには味わってみたい空間だけれど、
毎日はなあ、と思ったのだ。
 
でも、このご家族はとても素敵に住みこなしていらした。
白や黒、ブルーや紫の色を中心に使ったインテリアは、
無機的なこの建ものの雰囲気を大切にしつつ、
柔らかな印象を受けた。
室内に置かれた観葉植物、
まあるい丘のように整えられて芝生が敷かれた庭は
建ものをいきいきと見せていた。
そして何より、工作大好きの男の子が
自分の部屋を自作の工作装置でいっぱいにしている様子は
ものすごくほっとしたし、なんだかこのシンプルな建ものが、
彼の頭の中にあることを邪魔せずにいるようにさえ思った。
建ものは住み手あってのものだと、今回もやはり思った。
 
             ◇ ◇ ◇
 
もうひとつ、印象的だったのは、照明だ。
リビング、ダイニング、寝室のあちこちに電気スタンドが置いてあるなあ、
というのが気になってはいたのだが、
改めて番組HPの紹介を読むと、固定された照明は間接照明のみで、
天井には照明器具をつけていないとのことだった。
壁と天井との間に線状につけられた間接照明が一筋、二筋あるだけだ。
そのあり方には、建ものが備える装備として削ぎ落とされた美しさがあった。
建ものとしてはここまで。あとは住まう人が必要な灯りを傍に。
そういった建ものと住まう人との関係性がとてもいい。
建ものと人の営みが柔らかに交わる、この空間の灯りのある夜の風景もまた、
ぜひみてみたいと思った。