渡辺篤史の建もの探訪ー凸凹に箱を並べた家(御手洗龍、御手洗龍建築設計事務所)

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建もの探訪ファン
感想: 

先日、隣町に白鳥を見に行った。
羽ばたく白鳥はダイナミックで、
首を伸ばしてひょこひょこ歩く白鳥はちょっと奇妙で、
もちろん悠々と水面を滑る白鳥は優雅で。
なかなか楽しいひとときだった。
  
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「凸凹に箱を並べた家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/3
一筋通った、美しい建もの。
 
             ◇ ◇ ◇
 
大きさが異なる長方形の箱がブロックのように連結されている。
外壁は、グレーに塗られたレッドシダー。
建物の手前は、半分が駐車スペースのためのコンクリート、
半分は荒く砕かれた石がごつごつと敷き詰められていて、
玄関へのアプローチに四角い敷石が並べられていた。
建ものの正面側に植栽はなし。
 
その姿に、正直、ちょっと無骨な印象を持ったのだけれど、
一歩中に入ると、それはそれは垢抜けていて、
筋が通った気持ちよさのようなものを感じた。
白い壁に床や家具、窓枠などの統一された木の色が映える。
大小の正方形に近い形の窓がたくさん散りばめられていて、
光が気持ち良く入り、空気がきちんと動く様子が感じられた。
 
小さな子供二人がいる4人家族のための家。
一緒にいる時間を慈しみながら毎日を過ごせる、
美しい建ものだった。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
奥行き3.9m、幅と高さが違う5つの箱を横一列に並べ、
手前と奥に交互にずらし、凸凹に並べてある。
この凸凹の並べ方は、1月9日に放送された、
「奥行き27mの完全ワンルームの家」のそれとよく似ている。
凸凹にすることで、外と内との関係が密接になるし、
その箱の連なりを扉のない一続きの空間として使っても、
その広がりを生かしながらも、柔らかにエリアごとに区切られる。
 
凸状に出っ張った階段室は、光が美しく差し込む。
そして、凹部分に生み出された裏庭は優しい抜けになっていた。
今回の建ものは都内の住宅地にあり、背後にはすぐ住宅が迫る。
それでもこの凸凹配置のおかげで、裏の家の窓の前に
ちょうど小さな裏庭が生み出されていたのだ。
裏のお家の人は、この建ものが完成した時、
我が家の窓が死んでしまわないことにさぞかしほっとしたことだろう。
裏庭の緑は、裏のお家への心遣いでもある。
 
2階の広々とした空間のエリア分けも心地よいものだった。
この建ものの2階は、広々とした一続きのLDK+書斎だ。
書斎+トイレ、リビング、ダイニング、キッチンと並ぶ。
キッチンからは、この細長い一続きを書斎の端まで見通せる。
さらに、床には高低差をつけてあるから、
立ち仕事をするキッチン、椅子に座るダイニング、
床にも腰を下ろすリビング、椅子に座る書斎のどこにいても、
それぞれの場所にいる家族と目線が合うようになっている。
また、ダイニングテーブルは造作の作り付けのもので、
キッチン、ダイニングを貫き、リビングにもまで続く大テーブルだ。
(リビング部は切り離して小さな座卓としても使える)
LDK+書斎は、こんなふうに目線が通り、
テーブルが家族が集まる軸のような役割を担っていて、
家族みなが同じ空間で過ごしている、という一体感がある。
その上で、凸凹によってそれぞれのエリアにはそれぞれに広がりが生みだされ、
ちょっと目線が遮られるような角っこが生まれ、
それぞれの場がより心地よいものになっていた。
 
             ◇ ◇ ◇
 
この建ものの内部を、垢抜けていると感じるのは、
たぶん、台所、食卓、ソファー、洗面台にいたるまでが造作のもので、
壁や床との関係も合わせて、建もの全体に統一感があることが
大きいように思った。
 
私は家具自体の個性も好きだから、
作家もの、古いもの、民芸家具、など、じっくり選び、
集めながらお部屋を作っていくのが楽しいと思っているけれど、
今回のはまさに、家具も含めて建築だ。
こういう建ものも、すきっとした気持ちよさと、
建ものに導かれる安心感があっていいものだな、と思った。