渡辺篤史の建もの探訪ー〝離れ〟がある3つの塔の家 (八木敦之、八木敦之建築設計事務所)

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感想: 

今週は、立派な桜を生けた。
そのうちに、玄関は桜満開になる。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「 〝離れ〟がある3つの塔の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2016/5
離れを作る「すき間」が光と風を入れる工夫だ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
車一台が通れる幅の長いアプローチの先に、横に細長く建つ家。
敷地は、ぐるりと建物で囲われたT字型だ。
抜けなく隣家が迫る敷地で、プライバシーを守りつつ光と風を取り入れるための工夫が、
この「”離れ”がある3つの塔」なのだった。
 
横長の敷地に3階建ての3つの塔を建て、橋をかける。
この橋の部分が、建ものに光と風を取り入れる「すき間」となるのだ。
各階には、そんなすき間(外)に一旦出ないと行けない部屋が1つずつ。
特に3階の離れへの橋には屋根がないから、雨の日は濡れる。
橋といっても、大人ならば、一歩足を着くだけで渡れてしまうもの。
「雨の日は、ぴょーんと跳んじゃう。」
と、ご夫婦は軽やかに笑っていらした。
 
             ◇ ◇ ◇ 
 
橋を隔てた”離れ”は、各階それぞれに面白く、魅力的だった。
 
2階は、ダイニングとキッチンが一続きで、橋を挟んで離れのリビングになっている。
夏など、掃き出し窓をそれぞれに開け放てば、
縁側が挟まった大きな一部屋にも感じられるだろう。
ピカピカではない日当たりと、風の通りの良い大きな部屋は、
想像しただけで涼しくて過ごしやすそうだ。
”離れ”として閉ざすリビングもまた、「くつろぎ」が独立されて
なんだかとても豊かな感じがした。
 
3階の離れは主寝室。
橋は2階のものより幅が狭くて屋根もない。
独立した一部屋、という感じが強くて、ゆっくり休めそうな部屋だ。
天気の悪い日は「えいや!」と目をつぶって飛び越えて、
天気のいい日はベンチに腰掛け、きれいな夜空をひと仰ぎ。
眠りに行く、起きて出る。
橋があるから、そうやって、心と体のスイッチを入れたり切ったりできるだろう。
とっても素敵な主寝室だと思う。
 
1階の離れは、渡辺さんも口あんぐりの趣味部屋。
玄関ホールの脇のガレージを隔ててその離れはある。
1階といえど、ぐるり囲まれた敷地とあって窓はなく、
地下空間のように感じられるその部屋には、
選りすぐりの楽器にスピーカー、どっぷり身を委ねられる椅子が
スポットライトを浴びて置かれている。
この離れは、2階、3階の離れのように直接外とつながる部屋ではないけれど、
ガレージという土足部を通らなくてはアクセスできない。
小さな息子さんは、「なかよしスペース」と名付けたという。
ガレージを含めてたいそう贅沢な趣味部屋だけれど、
土足でそのままアクセスできるそれは、籠もり趣味部屋というよりは、
楽しくひとを寄せ付けるような親しみがある。
そんな親しみのある「なかよしスペース」。
この”離れ”にふさわしい、いいネーミングだなあと思った。
 
             ◇ ◇ ◇
 
画面で見ている分には、日当たり、ということについてはあまり気にならなかったけれど、
実際のところ、日当たりは良くはないのだろう。
「日当たり良好」これは外したくないなあと土地探しをしているから、
こういうのはどうなのだろう、と興味深かった。
 
1階は先にも書いたように、地下空間と言ってもよい。
2階のダイニングとキッチンは、薄暗い時間帯も多いだろう。
3階は、空に向けて抜けもあるから、寝室や洗面は明るそうだ。
 
それでも、共働きで日中、一家全員が外で過ごすことが多い家族にとっては、
許容できることなのかもしれない。
そんな中で、ベランダや橋の存在はやはり大きいと思う。
そして、明るい寝室、唯一抜けのあるアプローチに向いた窓がある洗面室など、
朝が気持ち良さそうな間取りであることも、
ひとつのメリハリなのだろう。
 
             ◇ ◇ ◇
  
いい具合に力の抜けた空気が心地よいお宅だなと思った。
キッチンにはどんな注文を?という渡辺さんの質問には、
「働いているから、がんばらなくても片付いて見えるように」
と奥様は答えていらしたけれど、それはなんだか家全体に言えることのように思えた。
 
家具や雑貨も、「選び抜いた」という感じでなく、
旅先で、街角で、びびっときて買っちゃった。
そんな雰囲気のもので、実際にそうなのだろう。
 
きちんと、きちんと片付けて、こまめにこまめに掃除して、
いつもこざっぱりと美しい家、という感じでなく、
かっこいいもの置いているからざっと置いてもかっこいい。
掃除も賢くささっと楽しくね。
そんな雰囲気なのだ。
 
必要なところに、たっぷりの収納。
シンプルに、大胆に、かっこよく。
 
気張らず気負わず溢れる感性をそのまま暮らしで楽しんでいる、
そんな様子がすごくうらやましかった。
私はまだまだ、気負っているなあ。