道路に接していない土地 (囲繞地通行権)

ユーザー 木の家プロデュース 明月社 山岸飛鳥 の写真

「囲繞地」という、普通の人は一生お目にかかることのない単語があります。
いにょうち と読みます。

セットになっているのは「袋地」で、袋の中身が袋地 袋の皮が囲繞地 と言うイメージですね。
多くは、畑や田んぼや山林などのケースです。

ひろ~い農地の真ん中に自分の畑がポツンとある時、自分の畑が袋地で、周囲の他人の畑が囲繞地です。
こんなとき、回りの人が親切なら良いけれど、意地悪な人で「うちの畑を通るな」と言い出したら困りますよね。

そこで、袋地への通行には、回りの他人地(囲繞地)を通行しても良いですよ と法律で決まっているのです。
これが囲繞地通行権 というちょっと不思議な権利です。

もちろん、だからといって回りの畑を踏み荒らして通うことは許されません。通行は「最小限度」ということになっていますし、当然ながら囲繞地の持ち主は通行を拒否はできませんが、通行料金は請求できます。

さてさて、こんな畑の話を聞いても家づくりにお悩みの皆さんにはあまり役に立ちません。
では、家を建てる敷地でも袋地とか囲繞地というのはあるのでしょうか。

原則として、それはあり得ません。
よく知られているように、家を建てる敷地は、道路に2m以上接している必要があるからです。絶対に他人地を通らずに道路に出ることができます。

しかし実際は、袋地に建っている住宅は珍しくありません。
中古住宅を買って建て替えよう とか リノベーションしたい と考えている方は、よくよく気をつけた方がいいですね。

一番多いのは、何十年も前に「長屋」で確認申請を出しておいて、一軒ずつバラバラに建てて分譲した家です。一番道路側の家はいいですが、2番目から奥の家は道路に接していません。こんな中古住宅を買ってしまうと、ニッチもサッチもいきません。
その一角全体を共同開発しない限り、まず建て替えは無理です。

私が実際に出会った事例は、もうちょっとレアケースで、見た目にはまったく袋地に見えない家でした。
ただ、道路に舗装の色の変わっているスペースがあり、ちょっと気にはなっていました。

これが実際の写真です。

こういう形状でよくあるのは、この家を建てた時に道路後退したケースです。側溝の位置が道路後退前、現状の塀が後退後 ということです。
ただ、周囲の状況からちょっと不自然な印象はありました。
しかし、役所で道路の調査をしても、とくに問題はなく、そのままプランを進めていたのです。

さて、ほぼプランも固まって、建築確認申請の準備を始めました。
その段階で、敷地周辺の登記簿を確認すると、なんと、この隙間は道路ではなかったのです・・・

一体何の土地なのか、市に聞いてもわからず、登記簿の所有者(会社)は倒産して行方知れず、完全に暗礁に乗り上げてしまいました。
それでも、周囲の状況を年代をおって調べていくと、およその事情がわかってきました。

この地域を開発した不動産会社が、この微妙な土地が自分の名義のまま残っていることに気が付かず、奥の敷地を販売してしまったのです。
何十年もだれもそのことに疑問を持たず、本来は接道がないのに現状の家の建築確認もおりていました。

私の施主の土地は(見た目)角地だったので、この変な敷地があってももう一本の道路に接しています。それでも、様々な条件がガラッと変わってしまい、それまで考えていたプランでは建てることができません。
まして隣家はまったくの袋地です。囲繞地通行権がありますから、変な敷地を通ることは問題ありませんが、建て替えはできません。

変な土地を購入できれば問題ないのですが、かなり探したのですが持ち主は行方不明です。
そこで結局は、私の施主が隣地を購入し、一回り大きな家を建てることになった、というのが顛末です。

あの変な土地はそのままですが、隣家は不幸を免れ、施主はもともと広い土地を希望だったので、丸く収まりました。

このように、ちゃんと区画された住宅地のように見えても、ミニ開発を繰り返した地域は端切れのような土地が残ってしまうことがあるようです。
通行権があっても建築はできませんので、よくよくご注意あれ。