横浜のマンション(パークスクエア三ツ沢公園)(販売:住友不動産・施工:熊谷組)の杭の施工不良について

ユーザー 建築家紹介センター 仲里 実 の写真

 

ニュースの概要

 
横浜のマンション(パークスクエア三ツ沢公園)(販売:住友不動産・施工:熊谷組)が施工ミスで傾いて、住友不動産が住民に仮住居への転居を要請。補強や建て替えの検討を始めているそうです。
 
http://www.asahi.com/articles/ASG667HY7G66ULOB02C.html?iref=com_alist_6_01

「住友不動産(東京都新宿区)が2003年に販売した横浜市西区の11階建てマンションで、建物を支える杭が規定に反して強固な地盤に到達しておらず、建物が傾いていることがわかった。同社は「安全だと言い切れない」と判断し、住民に仮住居への転居を要請。補強や建て替えの検討を始めた。」

 
最近、韓国でも完成寸前のマンションが傾いたというニュースがあったのですが、まさか日本でも同じような事例が起きるとは思いませんでした。
 

傾いた原因

 
ニュースによると傾いた原因は杭の長さが短くて支持層に届いていないためのようです
 
http://www.asahi.com/articles/ASG667HY7G66ULOB02C.html?iref=com_alist_6_01

「住民で作る管理組合によると、6棟のうち2棟をつなぐ渡り廊下に「ずれ」が見つかったが、住友側が当初は「問題ない」としたため、住民側が1級建築士に依頼。古い地形を調べて設計図と照合したところ、杭が旧地形の地表に届いていない可能性が浮かんだ。
 
 住民の要請で住友側はボーリング調査を実施。4月になって、約60戸が入る1棟の杭の長さが不足し、強固な地盤部分まで到達していない可能性が高いと判明した。体感はできないが、この棟が部分的に沈下したり傾いたりしているという。」

 
ニュースを理解するためにはいくつか説明しておいたほうがいいと思うので説明します。
 

杭の支持方法

 
建築で使われる杭の支持方法には2つの方法があります。
支持杭と摩擦杭です。
  

支持杭

 
支持杭とは固い地盤まで先端を到達させて硬い地盤の支持力で建物を支える方法です。
私の経験ではマンションなどの大規模建築物はすべてこの方式を使っていました。
今回のニュースによるとこの支持杭の長さが足りなかったようです。
 

摩擦杭

 
摩擦杭とは杭と廻りの地盤の摩擦力で建物を支える方法です。
私も木造住宅などの小規模建築物でしか使ったことがありません。
 

杭の工法

 

既製杭工法

 
工場で作った杭を現場に打ち込む工法。私が子供の頃は機械でガンガン音を立てながら打ち込んでいましたが、最近は先にオーガーと呼ばれるドリル状の機械で穴を掘ってから杭を挿入する工法になっています。
 

場所打ち杭工法

 
現場で穴を掘り鉄筋を挿入してコンクリ ートを打設して杭を作る工法
 

支持層とは

 
支持層というのはN値50以上の固い地盤が5M以上の厚さになっている地層です。
N値というのは地盤の強さを示す数値です。
あとで説明するボーリング調査という調査を行って測ります。
 

杭の長さの決定方法

 
今回の建物は杭の長さが足りなかったということですが、一般的に杭の長さは下記のように決定します。
 

ボーリング調査

 
一般的には設計に入る前に数カ所のボーリング調査を行います。
ボーリング調査とは地盤の支持層の深さなどを調べるための調査です。
地質のサンプルなども採取します。
ボーリング調査の結果を見て構造設計者が杭の長さなどを決定し、設計図を作成します。
 

試験杭

 
ボーリング調査で杭の長さを仮に決めますが、実際の杭を打つ段階で最初の数本は試験杭として支持層に達しているかどうか監理者が立ち会います。
事前にボーリング調査で採取したサンプルと見比べて支持層に達しているかどうかを確認して、設計図通りで問題ないかどうかを検討します。
 

杭が支持層に届いていない理由

 
例えば支持地盤が傾斜していて、たまたま支持層が浅い位置でボーリング調査をした場合、設計上の長さだと支持層に達していない杭が出てくる可能性はあります。
 
しかし、ボーリング調査は数箇所しか行いませんので、設計図通りの長さで支持層に達していない杭があっても設計者の責任とは言えないでしょう。
 

支持層の確認方法

 
杭の工法の項目で書いたように最近の杭の工法ではいずれにしても先にオーガーなどを使って掘削します。
杭業者の方ではオーガーに流れる電流量を測定して支持層に達したことを確認するそうです。
 

支持層に達していない場合の対応

 
支持層に達していない場合は、構造設計者と相談して支持層まで杭を長くするという対応が一般的でしょう。
 
杭が長くなった分、工事費は余分にかかりますが、設計図より杭が長くなったのは支持層の問題であって建設業者のせいではありません。
どこでもありうることです。
 
設計通りの長さでは支持地盤に達しないことが分かった時点で監理者・建築主に説明すれば、あとで追加費用として請求することは特に問題なかったと思います。
なぜ、杭が支持地盤に達していないままの施工が行われたのか不思議です。