渡辺篤史の建もの探訪ー史跡に臨む鎌倉の家(前原香介、前原香介建築設計事務所)

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感想: 

初夏のような爽やかな日が続いているのが嬉しい。
菖蒲もすっくとこどもの日を待つ。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「史跡に臨む鎌倉の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/16
日本らしい清らかな雰囲気のあるお家だった。
 
            ◇ ◇ ◇
 
番組を見終わった後、心が安らぐような、清々しい気持ちになった。
清潔な真っ白な壁、やわらかな木肌の床や窓枠、きりっと締まる黒の外壁。
それらが心地よく調和して、美しいなと思った。
 
大きな窓や開放的なテラスがある。
けれど、大開口!見晴らし最高!!と叫びたくなるような気持ちよさを味わうというよりは、
史跡とその背後の山の風景を、ひとつの絵として静かにじっくり眺めるような、
そんな楽しみのある窓とテラスだ。
 
1階は、真ん中を土間になった廊下が貫く。
白い壁に挟まれ、決して幅の広くないその廊下は、
この建ものに入った人を、ぐっとこのお家の静かな空気に引き込むようだ。
 
そして各部屋の大きさもまた、包み込まれるような心地よさだ。
「食卓サイズ」とでもいうように大きな食卓がぴったりと収まった食堂は、
広過ぎず、窮屈でなく、家族の温かみが隅々まで届くような広さ。
食堂から一段下がった居間は、くるり囲まれたような籠れる場で、
ソファーに腰を下ろすと天井が少し高く感じられて、きっと豊かな気持ちになれるのだ。
セパレート型の台所もまた、心を落ち着けて、ぐっと料理に集中できそうだ。
その台所にある細長い窓は、一息着く目を緑が楽しませ、緊張や熱気をすっと逃すよう。
 
先週のお家は、がらんとした広さがとても豊かな感じがした。
その強い印象を頭に残したままに見るこのお家。
とりわけ日本らしい謙虚さと静かな美しさを強く感じて、
この広さ感のよさを考えさせられた。 
 
            ◇ ◇ ◇
 
静けさのある大人のための建てものだけれど、
たぶん、このお家は、その静けさをぽんと割って、いつもかなり賑やかだ。
鎌倉という魅力的な地。
海を共に楽しむ仲間が頻繁に訪ねてくるのだという。
海から帰ると、裏庭’から、真ん中を貫く土間からみんなお風呂に直行できる。
大きなお酒専用の冷蔵庫には、たっぷりのビールや日本酒が冷えている。
海の楽しみの後にみんなでワイワイ。
お腹の底から出るような笑い声のする、楽しげな宴の様子、
そしてふと会話が途切れた時の充実した静寂までも、生き生きと想像できた。
 
決して広いお家ではないけれど、このお家もまた、人が集まる家の形だった。
 
            ◇ ◇ ◇
 
この建ものの魅力はたくさんあるけれど、テラスとアプローチ、小さな裏庭、
この3つの「外」がなかなかいい。
 
このお家の敷地は旗竿型。
駐車スペースをも確保した砂利敷きの長いアプローチが、
道路から静かなお家までを導くのが素敵だ。
 
2階の部屋の真ん中がポッコリ外へ出されたような屋根付きのテラスは、
とても身近なスペースだと思う。
内でもなく外でもないようなそのテラスは、外へ出るという気負いはいらない。
テラスがあることで、外の空気、外の風景がぐっと近くに感じられる。
 
そして秘密の裏庭もとても機能的だ。
「海帰りの仲間が、お風呂の順番を待つところ」だそうで、
「裏の溜まり場」みたいで楽しい。
まったく、よく気が利く建てものだ。
 
            ◇ ◇ ◇
  
鎌倉の暮らしを楽しむ家。
そして、渡辺篤史さんがコメントしていたように、
住まわせてもらっている、という気持ちで暮らす家。
いい家だなあと、しみじみと思う。