ハウスメーカー・工務店と契約する際はインフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項に注意

工事請負契約書

インフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項とは

インフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項はどれも同じような意味です。
建築の請負契約を締結してから、建物の工事を行い、最終的な支払いが終わるまで住宅でも数ヶ月、大規模な建築物の場合は数年かかります。
 
当然、その間には社会情勢がかわり、建築材料や職人の人件費などの価格が値上がりする可能性もあります。
その場合、受注者(工務店・建設会社)が発注者(建築主)に請負代金の変更を請求できるという特約のことです。

条文の例

中央建設業審議会が民間建設工事標準請負契約約款という建設工事の請負契約者のひな形を作成しています。
建設工事標準請負契約約款について
その中に下記のような条文があります。
この中で五項・六項などがインフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項にあたると思います
 
 (請負代金額の変更)
第三十一条 発注者又は受注者は、次の各号のいずれかに該当するときは、相手方に対して、その理由を明示して必要と認められる請負代金額の変更を求めることができる。
一 工事の追加又は変更があったとき。
二 工期の変更があったとき。
三 第三条の規定に基づき関連工事の調整に従ったために増加費用が生じたとき。
四 支給材料又は貸与品について、品目、数量、受渡時期、受渡場所又は返還場所の変更があったとき。
五 契約期間内に予期することのできない法令の制定若しくは改廃又は経済事情の激変等によって、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき。
六 長期にわたる契約で、法令の制定若しくは改廃又は物価、賃金等の変動によって、この契約を締結した時から一年を経過した後の工事部分に対する請負代金相当額が適当でないと認められるとき。
七 中止した工事又は災害を受けた工事を続行する場合において、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき。
2 請負代金額を変更するときは、原則として、工事の減少部分については監理者の確認を受けた請負代金内訳書の単価により、増加部分については時価による。

公共建築の場合の契約の進め方

私が会社員時代に経験した公共建築の場合、下記のような流れで工事契約をします。

設計者の選定

役所から「○○工事の設計者の競争入札の現説を行うから来てください」という電話がかかってきます。
ちなみに競争入札に参加するためには事前に役所に「指名願い」という書類を提出しておく必要があります。
指名願いの出ている設計事務所の中から5社前後を選んで競争入札の現説に呼ぶようです。
 
現説というのは現場説明会の略だと思うのですが、現場で説明を受けたことは一度もありません。
役所内の会議室の中で説明を受けます。
現説では建てる建物の概要や依頼される設計業務の内容の説明を受けます。
その後、各社それぞれに設計料を見積もります。

競争入札

役所が決めた日時に役所内の会議室で入札が行われます。
それぞれに自社の決めた設計料の金額を紙に書き込んで箱に入れます。
その中で一番、低い金額が役所内で決めた予算以下になっていたら、入札は終了します。
 
すべての会社が予算以上の金額を出していた場合は再度、入札を行います。
入札は3回まで行って、3回以内で予算以内の入札がない場合ははいったん入札を終了するそうです。

設計業務を行う

役所の決めた予算内で一番安い金額を入札した方はその後、設計契約し、設計業務を行います。
設計業務の成果品には

  • 図面
  • 数量計算書
  • 金額抜きの見積書

などがあります。

役所で見積もりを行う

役所によっては過去の工事費などから作成した単価表というのがあるようです。
設計事務所から提出された「金額抜きの見積書」に役所独自の単価を入れて建設工事の予算などを見積もるようです。

建設業者の競争入札

設計者の場合と同じような手順で建設業者の入札を行います。

建設工事請負契約

落札業者と請負契約を締結します。
その際には設計事務所が作成した詳細な設計図をそれをもとに作成した見積書が添付されます。
 
見積書には使用している建材などの数量や単価が明記されています。
あとからでも見積書を見れば使用している建材の数量や単価はわかります。

見積書

一般の方がハウスメーカーや工務店に直接、依頼する場合の契約の進め方

一般の方がハウスメーカーや工務店に建設工事を依頼する場合、一般的には下記のような進め方が多いと思います。

業者の選定

モデルハウスや広告などを見て相談するハウスメーカー・工務店などを選ぶ。

相談、見積もり

ハウスメーカーや工務店に対して、家の広さや必要な部屋・希望の設備などを話して、簡単な図面や見積書をもらう。
それを複数の業者に対して行い、間取り・設備・仕様・見積金額などを総合的に判断して依頼する業者を決定する

建設工事請負契約

間取り・設備・仕様に大きな不満がなく、見積もりが予算内におさまれば上記で決めた業者と建設請負契約を結びます。
重要なことはその際に依頼者の多くは建材の数量や単価を把握していないということです。
また、建設工事請負契約書に添付される図面や見積書も簡易的なものが多く、使用される建材の数量や単価がわからない場合があります。
総額が予算内におさまっていればOKみたいな感覚の方が多いと思います。

インフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項の問題点

インフレ特約・インフレ条項・スラウド特約・スライド条項が契約書に明記されている場合、建設業者が請負金額の変更を請求することができます。
公共建築の場合は上記で述べたように契約書に添付されている見積書を見れば、使用されている建材の数量や単価はわかります。
建設業者から請負金額の変更を請求された場合、それを根拠に交渉し妥当な金額で請負金額を決めることができます。
 
一般の方がハウスメーカーや工務店に直接、依頼する場合、上記で述べたように使用されている建材の数量や単価もわからない状態で契約している場合が多いと思います。
その場合、ハウスメーカーや工務店から請負金額の変更を請求されても、交渉する根拠がありません。
交渉がまとまらなければ、引き渡しを受けることもできません。
結局はハウスメーカーや工務店の言い値で請負金額の変更を認めざるを得なくなる場合が多いと思われます。

ハウスメーカー・工務店と契約する前の注意点

直接、ハウスメーカーや工務店と建設工事請負契約書を締結する場合は、上記で説明したインフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項が明記されていないかをよくご確認ください。
明記されている場合はインフレ特約・スライド特約・インフレ条項・スライド条項を削除してもらうなどの交渉をすることをおすすめします。
 
建築家に設計監理を依頼すれば公共建築と同じように詳細な図面を作成してもらうことができます。
その後、工務店などに見積もりしてもらえば使用している建材の数量や単価がはっきり明記されている見積書が作成されます。
 
工事中に何らかの変更をした場合でも、請負金額の変更の交渉がしやすくなります。
ぜひ、建築家に設計監理を依頼するということも選択肢の一つに加えていただければ幸いです。
 

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