自分の好きな間取りで独自の住空間に住むことができるコーポラティブハウス・建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さん

コーポラティブハウスとは希望者が集まって組合を組織して、土地購入+集合住宅を建築するものです。
複数の個人・家族が共同で集合住宅を建てるので、建築主から見れば一般的な建売分譲タイプとは違って、それなりに自由に設計できます。
 
コーポラティブハウスについて建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー 建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤 の写真
愛媛県東温市河之内4885 「一畳庵」
089-966-4288

 

コーポラティブハウスは一般的な集合住宅にくらべてどのようなメリット・デメリットがありますか?

まず、コーポラティヴハウスは日本ではあまり知られていないので、簡単に説明します。

コーポラティヴハウスとは

希望者が集まって組合を組織して、土地購入+集合住宅を建築するものです。複数の個人・家族が共同で集合住宅を建てるので、建築主から見れば一般的な建売分譲タイプとは違って、それなりに自由に設計できます。
ただし集合住宅であり、区分所有法に則って建てられるため、戸建て住宅に比べれば多くの制約があります。
そのため、自分たちで組合を組織してルールを作る必要があります。
 
ドイツでは集合住宅の約3割がコーポラティヴ方式と言われていますが、日本では殆ど知られてもいないのが現実だと思います。
所有に対する認識、都市生活や共同生活に対する認識に隔たりがあるのだろうと思います。

メリットとデメリット(建築主側から見て)

 

<メリット>

  1. 自分の好きな間取りで、独自の住空間に住むことができる。→→満足感
  2. 自分の好きな外観や空間を共同で所有することになる。→→住むことに満足感や充足感が得られる。
  3. 住民自治が基本であり、住民同士の交流が深まり、良好なコミュニティを作りやすい環境になる。
  4. 不動産売買における手数料が安くなる可能性がある。(土地、建物、権利調整の有無などで変わりますが。)
  5. 建築行為におけるお金の動きが透明になる。余計な疑いや憶測をせずに済む。
  6. 転売が有利になる場合もある。(独自の空間と外観なので希少価値が生まれる。)
  7. 設計・工事・管理運営の過程で、社会への順応性を得ることができる。→→人生にプラスになる。

 

デメリット

  1. 手続きが面倒くさい。(土地の購入、権利割合の決定、度重なる協議、建築設計行為への関りなど) このような行為に対して強い関心と粘り強さが求められる。
    住民自治が基本なので、やることが多く、責任意識の重圧が苦手な人には不向き。
  2. そもそも区分所有法による「所有権」であるので、使い方・住み方に制限がある。(建売分譲タイプも同じ。)
  3. 住人同士の関わり合いが比較的濃密になるので、これが苦手な人には不向き。
  4. 転売が難しい場合もある。(独自の空間になるので、他の人から見てライフスタイルに合わない場合もある。)
  5. 他の住人や設計者の意見と合わない場合がどうしても起こる。→→許容範囲内の譲歩に収まるかどうか。途中棄権の可能性もある。

 

コーポラティブハウスでも住宅ローンの融資を受けることは可能でしょうか?

 
はい。特に問題はなかったと思います。

コーポラティブハウスの管理は誰がやるのでしょうか?

 
住民自治が基本です。
 
少々複雑になりますが、管理における問題点を説明します。
計画・建設段階では参加者(権利者)は建設組合または再建組合を作り、竣工後の運営に関しては管理組合を作って対応します。
この流れがスムーズに行われるためには参加者の中で派閥化せず、信頼関係が築かれることが大切です。
 
かつての「ムラ意識」にも通ずるところがあります。
「ムラ」というコミュニティには当然良し悪し両面がありますが、適度に近い距離感をお互いに取る、という感覚が肝要だと思います。
そのための配慮が設計者にも求められます。
 
阪神大震災後にマンション管理士制度が創設されて、上記の管理組合の運営を請け負う会社が生まれました。
しかし管理会社が行うのは日常的な清掃やメンテナンスの代行などの軽い業務であり、本質的な問題解決の場面ではほとんど役に立たない、という印象を持っています。
 
個人差はありますが、彼らの職業的立場と能力では、土地や建物の権利調整を行うことはできません。
権利者間で発生する利害関係の整理と問題解決に対しても同様です。(あくまでも個人差はあります。)
 
計画・建設段階においてはこれらの問題を事前に整理して難関を突破すること、これがコーポラティヴの事業にとって最も大切な局面ですが、これを国家資格者に頼ることができない、ということを肝に銘ずるべきです。
あくまでも住民自治を貫くことが肝要で、それが叶えば、他からの支援を生かすことができます。

「コーポラティブハウス 魚崎市場再建」の依頼者からはどんな要望がありましたか?その要望をどのようにかなえましたか? 

 
この質問に答える前に、コーポラティヴには2つの種類があると私は考えています。

① 積極的コーポラティヴ
自らの意志で参加するもの
② 消極的コーポラティヴ
外的な要因で参加するもの

① は、ごく一般的にコーポラティヴと呼ばれるタイプで、かつての都住創などが手掛けていたものです。
② は、他に良い解決策がない時に選択する場合です。
 
既存不適格の敷地に再建する選択肢として、共同化が避けられない場合などに発生します。
災害の被災地や、都市の再開発などによる場合が想定されます。
この場合は①と異なり、コーポラティヴとは何かを知らずに参加する権利者がほとんどです。
魚崎市場は②にあたります。私はこれを一つ経験しただけなので、コーポラティヴの建築経験者と言えるほどの資格はありません。
 
以下は、一つの実例から感じたこと、としてお読みください。
 
ケース②では①と異なり、自らの好みと意志に基づいてコーポラティヴを選択しているわけではないので、まずコーポラティヴとは何かを細かく繰り返し説明する必要があります。
全員がよく理解した上で決議をとらねばなりません。
なかなかむずかしいポイントです。
 
また、権利上あるいは経済上他の選択肢がない参加者もいるので、大枠については設計者やコンサルに全面的にお任せする、という方も多くいます。
魚崎市場では、災害復興という局面もあって住民同士とコンサル・設計者の協力が重要だとの認識が強くあり、設計段階においてはかなりまとまりがよかったという印象を持っています。
 
「権利調整」→「住戸の選択」→「権利の再調整」→「住戸の決定」→「基本ルールの確認」→「内装などの希望の聴取」→「設計調整」→「基本設計の決定」
という大まかな流れの中で、各局面ごとに希望を聞きながら全体調整を繰り返しました。

前半の「権利調整」に関する作業を具体的に説明すると、借地権を土地の所有権に変換し、所有する権利に応じて住戸の面積を割り当て、設計上可能な住戸配置と擦り合わせながら権利者全員で取得住戸を決め、所有権利とのズレをお金に換算して差額を調整する、という内容でした。
 
どれだけの広さの住戸に対して費用がいくらなのか?が、参加者のもっとも強い関心事でした。
内装や設備に関する要望はいろいろありましたが、集合住宅の制約の中で叶えられるものとそうでないものを説明し各参加者と個別協議を重ねて、設計を固めて行きました。
 
メリットデメリット含めて理解することで、専門家と権利者・参加者との信頼関係が生まれます。
信頼関係の構築は事業がうまく進行するかどうかを占う非常に重要なポイントになりますので、ここには多くのエネルギーや時間が費やされねばなりません。

コーポラティブハウスを建てたい方にアドバイスがあればお願いします

建築主と設計者、双方への進言です。

◆集合住宅の権利・・・・・・区分所有法

集合住宅の所有権の在り方について、細かい説明を受けて理解することが事業を進める上での大前提となります。
区分所有法は、あえて「所有」という単語を使用することに何の意図が託されているのか??この点を理解する必要があります。
 
法律用語とは時に政治的な言い回しになります。
本来ならば、区分所有法における「所有の概念」は、むしろ「使用権」だと捉える方が自然だと思います。
(中国における所有権とよく似ているのかもしれません。)
 
区分所有法の具体的な説明は、この場では省略いたしますが、本質的な意味を設計者がよく理解し、参加者全員も理解した上で事業を進めることが重要だと思います。
現行の分譲マンション販売業者はこれを怠っているのが通常ですので、多くの購入者は現実を知った時に相当の衝撃を受けることが多いようです。
 
説明と理解が完全ではないまま、進行途中の段階で、参加者にとって期待を裏切られたと思われた時には大きなトラブルに発展することがあります。
私の場合も途中棄権された方がありました。
が、幸運にもすぐに新たな参加希望者が現れ、事業は順調に進むことができました。

◆業務の範囲と報酬

設計者の業務は多岐に亘り作業量も非常に多く、建築士法下に定める報酬基準にはあてはまらないことは確実だと思います。
(あくまでも実感レベルです。)
通常の難易度の高い設計業務報酬の2倍程度の報酬が必要になるはずです。
 
私の場合はコンサルとの協働で作業を分担しましたが、コンサルの報酬基準がありませんでしたので、設計報酬の中に組み込みました。
コーポラティヴの設計報酬基準と、コンサルの報酬基準を明確に定めるべきだと思います。
 
都住創の場合は独自の基準を設けていたと関係者から聞いています。
日本ではなかなか広まらないコーポラティヴを進めるためにも報酬基準を一般化して、作業内容を社会的に認知させる必要があります。
 

◆適用性

メリットとデメリットの項目で示したように、人間関係の作り方が重要な鍵になります。
コーポラティブ方式が持つ一種の社会学習効果によって、人生が豊かになケースは少なくないと思います。
1世帯の人口が少ない、老人や弱者の孤独死が多い、世間と没交渉に陥りやすい、などの傾向が強い現代の社会では、コーポラティヴ方式の住宅の役割は大きいはずです。
 
西欧ではコーポラティヴは広く利用されているが、日本では根強い抵抗があるのは何故なのか?
この点を分析してコーポラティヴの事例をもっと増やすようにさまざまな方面から働きかけるべきだと思っています。

建築・都市設計インタースタディオ 笹木篤さんのコーポラティブハウス設計事例

 

画像 建物の名称 紹介文
コーポラティブハウス 魚崎市場再建

震災復興という特殊な条件下ではありますが、全くゼロからスタートした純然たるコーポラティブです。白紙の状態から各家族にヒアリングを行い、住戸割りや構造などを段階的に決めて行きました。その過程で各住民の方々には譲歩や調整をしていただきました。

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