治療と接客のバランスがいい動物病院・atelier FISH | アトリエ・フィッシュ 山下誠一郎 山下真未さん


 
動物病院には、大きく分けて「治療」と「接客」の部門があります。
その二つがバランス良く成り立っている事が重要です。
 
動物病院についてatelier FISH | アトリエ・フィッシュ 山下誠一郎 山下真未さんにお話を伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー atelier FISH | アトリエ・フィッシュ 山下誠一郎 山下真未 の写真
神戸市灘区八幡町2-10-11 メゾン六甲302
078-854-1607

 

貴社が動物病院を手がけたきっかけがあれば教えてください。

 
独立開業して4年になるドクターが現在の病院が手狭になったため移転先を考えていました。
 
当初、大手不動産会社の設計部門が設計を進めていましたが、何度かの打ち合わせを経てもあまりしっくりこなかったため、ドクターが知り合いに相談しその方がたまたま私と知り合いでした。
 

動物病院の設計で気をつけていることを教えて下さい

 
私自身も長く犬を飼っていた経験があります。
しかし、あまり動物病院の雰囲気が好きになれず、どちらかというと足を運びたくない場所の一つでした。
その理由を一言で言うと「人間の病院に比べて非常に大雑把な感じがした事」だと思います。
 
整理されていない動線がもたらすプライバシーや衛生面での不安であったり、病院中に貼られた薬品メーカーやフードメーカーの妙に営業色が強いポスターであったり、病院中に置いてあるもの(時計や小物等)がチグハグだったり・・・・
 
率直な感想として治療以外に気が配られていないと思いました。
それが大雑把と感じた原因なのかもしれません。
 
病院には、大きく分けて「治療」と「接客」の部門があります。
その二つがバランス良く成り立っている事が重要だと思います。
 

動物病院の間取りで気をつけていることを教えて下さい

 
間取りで大切な事は、大きく二つあります。
一つは、フレキシビリティーを有する事。
もう一つは、プライバシーをきちんと保てる動線計画です。
 
前者は、どんどん新しくなっていく医療機器を更新導入する際に、建築が足かせにならないようにする事が重要です。
それが出来るように色々と見えない部分でも備えておく事が重要です。
 
後者は、受付待合、診察、検査とエリア分けを行った場合、
限られたスタッフで仕事を行うにあたって無駄な動きを極力無くす動線は大切です。
 
しかし、人間の病院で例えると小児科と高齢診療科が同居しているような所です。
希望満ち溢れた飼い主と、悲しみに暮れる飼い主が待合で同席する事になります。
非常にデリケートな環境を維持できるような場所(カーテン越しに診察内容が聞こえるようなことのないように)
が必要だと考えています。
 
動物病院は、単に動物の治療を目的とするだけでは無く、
飼い主の心の支えとなる場所であって欲しいと願っています。
 

 

動物病院の外観で気をつけていることを教えて下さい。

 
動物病院を訪れる人は動物好きが多いと思いますが、もちろん世の中全ての人がそうとは限りません。
中には動物アレルギーの方もいらっしゃいます。
これも人間の病院とは異なる点だと思います。
 
地域に受け入れられなければ生業として成り立ちません。
そういったことを踏まえると、奇をてらったような外観にする必要は無く、暖かく包み込むような印象を与えることが大切だと考えています。
 

 

動物病院の床材でおススメがありましたら教えて下さい。

 
動物の排泄物や検査での薬品、液体を床にこぼす事は避けられません。
検査機器やパソコン等の事を考えると床の水洗いも現実的ではありません。
 
床材の選択で大切なのは、「染み込まない事」「水拭きができる事」「動物が滑らない事」です。
タイルなどは、目地に染み込みますのでお勧めできません。
 
床材がいくら染み込まないものであっても、壁と床との間に染み込んでしまうと意味がありません。
床材が壁へと一体で立ち上がりどこにも染み込まないようにする事が、臭いを抑え病院を清潔に保つ事につながります。
 
臭いについては、病院で使用する仕上げの選択だけで無く「計画換気」も大切なポイントです。
新鮮な空気をどこからどれだけ取り入れ、どこへどうやって排気するか。
 
ドクターやスタッフは、毎日の仕事なのである程度の臭いに慣れてしまっている傾向があります。
空調との関係を考慮しながら「計画換気」を決定する事が、病院を訪れた患者さんに対して印象を大きく左右する事になります。
 

SAHはお寿司屋さんから動物病院へのコンバージョン(用途変更)ですね新築と比べてなにかご苦労はありましたか?

 
建物には、撤去できる壁や柱とそうでないものがあります。
また、天井と床の高さは、基本的に変える事ができません。
これらの事は、不動産を選択し取得する前に検討すべき重要な項目です。
 
既存建物にどれくらいの「余白」が存在しているかを知らなければなりません。
コンバージョンをする時に、この「余白」が可能性を大きく左右する事になります。
 
今回のケースでは、表通りに対して比較的閉じている建物だったため、
どうやって動物病院だという事を認知させるかという事が課題でした。
内部の間取り等に関しては、うまくまとめる事ができたと考えています。
 

ロゴマーク、ドクターの名刺、診察券、問診票、薬袋、看板、ホームページなどのデザインもやっていただけるのですか?

これは、あらゆる業種に共通することですが、動物病院の場合、ドクターは治療等に於いては専門家です。
しかし、上記の部分(ロゴマーク、名刺、診察券、問診票、薬袋、看板、ホームページなどのデザイン)に関しては専門家ではありません。我々の事務所では、「どうすれば病院を上手く経営できるか」という視点で考えています。
 
まず最初に、病院を経営する上で診察等に関わる部分とそうでない部分に分け、診察に関わる部分に関してはドクターに考えていただき、その上でドクターが必要だと考えるものをお聞きします。
 
また、診察に関わらない部分、例えばロゴマーク、診察券、問診票、薬袋から医院内の時計、小物、釣り銭トレイに至る病院を運営していく上で必要なもの全てを我々が選ぶようにしています。
 
大切なのは、訪れた全ての患者さんに対して心地よい治療を行う事だと思っています。
そのためには「治療」と「接客」とのバランスが大切だと感じています。
 
どちらかが疎かになっても上手くいきません。
患者さんの目に触れるもの全てをバランス良く整える事は、建物の設計と同様に大切な事です。
 

 

ハウスメーカーや建設会社ではなく貴社に動物病院を依頼するメリットを教えて下さい。

 
ハウスメーカーや建設会社の設計手法について知り得ないのでなんとも言えませんが、我々の事務所では、トータルでバランス良く病院開設に向けてドクターと一緒に考えていくことができます。
これは、開業してからも細かい修正を常に行いながらバランスを保っています。
 

動物病院併用住宅の相談にものってもらえますか?

 
我々の事務所の半数は、住宅の設計依頼です。
動物病院併用住宅の相談も、もちろん可能です。
 

土地・テナント探しの相談にのってもらえますか?

 
我々の事務所に相談に来られる方の大半が土地、テナントを決めていない状態です。
まず最初に、ドクターの希望を聞きその希望を叶えられる土地、テナントを一緒に探すことが希望を叶える大前提だと考えています。
 
行政によって動物病院が開設可能な用途地域も様々です。
行政の窓口に出向き、相談し可能性を探ることも行います。
 
そういった意味でも土地、テナントを決める前に相談に来られることをお勧めいたします。
 

動物病院を建てたい方になにかアドバイスがあればお願いします。

 
事業を成功させるためには、それぞれの専門分野で役割分担をし、力を発揮する事が重要です。
開業に至るまでには膨大な決定事項が存在します。
 
滞り無く開業するには、まずは「診療以外を担当する信頼できるパートナーを見つけること」だと思います。
 

atelier FISH | アトリエ・フィッシュ 山下誠一郎 山下真未さんの動物病院・設計事例

 

画像 建物の名称 紹介文
SAH

元お寿司屋さんだった建物のコンバージョンです。
目指したのは、具合が悪くならなくても定期的に訪れたくなる動物病院です。