サービス付き高齢者住宅

ユーザー 河原泰建築研究室 河原泰 の写真

サービス付き高齢者住宅の設計依頼が増えています。
平成27年11月現在で登録棟数は6000棟、登録戸数は19万戸となっており、
政府は2020年までに60万戸まで増やすことを目標に掲げています。
年間1000棟以上のペースで増え続けている要因は、
政府が建設費の1/10の補助金を出していること、
現段階では、都市部を中心にまだ需要を見込める地域が多いこと、
団塊の世代が高齢化し、相続対策として土地活用を考えている人が多いこと、
などがあげられます。
特に、近年は建設費の高騰から賃貸アパートの事業収支が合わなくなってきており、
ハウスメーカーはこぞってサービス付き高齢者住宅の建設を推進している状況です。

われわれのところにも相談が増えており、現在3件の計画が進行中ですが、
事業計画を詳細に詰めていくと、ハウスメーカーの営業マンが言うほど誰でも簡単に
儲かる事業ではないことがわかります。

簡単に営業マンの言葉を鵜呑みにしない留意すべきこととして、いくつかのポイントをあげます。
 
①家賃収入が多くないのに建設費が結構かかる事業です。
家賃は周辺の賃貸住宅の賃料と同等以下に設定されるケースが多いです。
これは、建設費から逆算して決めているわけではなく、周辺のサ高住がそのように設定しているからといって決められる場合がほとんどです。家賃は一旦設定すると、後から上げるのは難しいです。一方で、建設費は、福祉施設用の高価な扉やいたるところに設けなければならない手すり、ストレッチャー対応のエレベーター、スプリンクラーなど、普通の賃貸住宅と比べてどうしても高くなってしまいます。
 
②サービス費だけでは利益がでない事業です。
サービス費はサ高住の特徴である見守りサービスの人件費です。これも周辺施設とのかねあいから決定されており、経費と同等の値段設定で、ほとんど利益がでない場合が多いです。
 
③介護報酬に頼る事業計画は注意が必要です。
家賃やサービス費ではあまり利益がでないのに、なぜ事業参入者が多いのかというと、多くの施設がデイサービス等を併設して介護報酬で利益を出すからです。あるハウスメーカーの一括借り上げの事業計画をひも解いてみたところ、家賃とサービス費はほぼ利益がないのに対し、デイサービスの月々の利益が200万円以上となっていました。確かに、現在の介護報酬が続けば、机上の計算ではそれだけの利益が得られることになります。しかし、今後少子高齢化がますます進む中、現在の介護報酬が続くわけがない。
営業マンは一括借り上げ25年で事業返済可能です。事業返済が終わったら、あとは儲かるだけですよとセールストークします。しかし25年後には介護報酬頼りの事業計画が破たんしているかもしれない。25年経った後、負の資産だけが残ってしまうとしたらどうでしょうか?
 
『サ高住は、賃貸事業としても成立するように考えることがポイント』
 
賃貸事業のときには、大家さんは将来需要を考えて真剣に建物を計画すいるのに、
サ高住は介護報酬頼みなんだから、ハウスメーカーに任せてプレハブをつくればいいと考えていませんか?登録基準さえ守っていればいいと考えて、25㎡ぎりぎりに造ったりしていませんか?
 

大間違いです。
 

世の中に20万戸近い同種の建物が存在し、今後も増え続けていくのです。
当然、競争になります。
サ高住も、真剣に建物を計画するべきなのです。
 
われわれは、サ高住においても、高齢者の今後の暮らし方と地域の実情、敷地の環境などを考慮して施設のコンセプトをつくります。現在、計画中のサ高住は陽だまりの菜園バルコニーのある住まい。
周辺施設と差別化された全国的にも類をみないサ高住となる予定です。

事業的にも安定し、かつ入居する高齢者も笑顔になれる。そのようなサ高住を建築家の立場から提案していきたいと思っています。