オープンシステム

ユーザー 有限会社 アヴニール設計 伊藤 禎 の写真

オープンシステム、建築業界では平成10年(1998年)株式会社イエヒト(旧オープンネット株式会社)代表の山中氏が使用し始めた言葉では無いでしょうか?古くは建築の分離発注、近年ではCM(コンストラクション・マネージメント)が近い意味合いを持ち、そのプロジェクトの中心をCMr(コンストラクション・マネージャー)が担います。国土交通省も平成14年(2002年)にCM活用ガイドラインを作成しています。
ガイドラインでは、CM方式の定義について、「CM方式(ピュアCM)とは、発注者の補助者・代行者であるCMr(コンストラクション・マネジャー)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行うもの」としています。
CM(オープンシステム又は施主による分離発注)方式を採用する場合、住宅等、比較的小さい物件では、建築設計事務所に設計及び設計監理と合わせ、その役目をCM業務として別途委託する場合が多いですが、どこの建築設計事務所もCM業務が出来るわけではありません。設計監理においては品質管理及び工程管理は施工業者に確認・指導する立場で、きちっと監理できる建築設計事務所であれば問題有りませんが、多くの設計事務所は、工事発注・コスト管理においては通常業務で行わないので苦手としています。いわゆる施工業者(元請け・工務店等建設会社)を通しての下請負業者(電気・水道・仮設・大工・左官・板金・塗装等)との付き合いが薄く、材料販売店(商社)との取引も無いので、実際の市場価格が分からないのが現状です。つまり、CM業務を依託する際には、それなりの技術的スキルと分離発注に伴う実績が有る設計事務所でなければ、工事や材料の発注もずれ込み工程が遅れたり、建築コストに関してもかえって高くなるケースもあり得ると言う事も頭に入れておいて下さい。
それともう一つ、前述したCM方式の中で、ピュアCMの意味を付け加えておきます。オープンシステムも含め、通常のCM業務のことをピュアCMと言い、施工に伴う最終的なリスク(施工を分離することなどに伴う全体工事の完成に関するリスク)は元請けで有る発注者が負うことになります。つまり、工事の遅延や、場合によっては工事着工前にCM業務依託した設計事務所がまとめた見積書にも予期しない見落としや不具合が有り(例えば、工事中に地下水が出たり、大きな転石が埋まっていたり、地盤が緩かったり、特に地面から下の見えない部分は何があるか分かりません。)、思わぬ工事費の増加も有るかもしれません。これに対して、アットリスクCMと言う言葉が有ります。その意味は、CM業務を受諾するCMrに、それらのリスクも含めて業務委託することを言います。その場合、CM業務費がそのリスクの分、コストの安全を考慮して、若干UPすることはやむを得ません。これを回避するためにも、「保険料のつもりで、若干の自己資金(通常の住宅においては100万程度)を別途考えておいて下さい。使わないに越したことは有りませんが・・・。」と、アドバイスしています。
写真は山香小規模多機能施設『ヴィオラ』・・・平成21年(2009年)CM業務

思い起こせば建築設計事務所として、設計・監理業務だけでは無く、直接工事に関わり始めたのは「父の家」平成6年(1994年)、そして「神戸サンド屋」平成7~15年(1995~2003年)大分県内外のフランチャイズチェーン一連の店舗から始まりました。主としてテナント入居の店舗設計で、「設計料○○万円です。」と言う言葉がなかなか言えず、そうで有れば直接工事も請けようと言う切実な気持ちから始まりました。ここで多くの下請負業者さん、建材販売店さん等と取引が始まりました。それから「自宅の設計・工事」平成10年(1998年)で分離発注を本格的に始め、現在に至ってます。
当社は専業の建築設計事務所です。通常の業務は設計した物件を建設業者に相見積もりして頂き、施工業者を選定し工事着工、現場監理をしています。CM業務を行うのは、主として当社で設計した住宅のみで有り、設計業務が忙しいときには発注者にお断りを言わざる得ないときも有りますが、当初からCM業務を考慮して依託有る場合は出来るだけ期待に応えられるよう考えています。監理と管理、前者を皿かん後者を竹かんと読んでおり、読んで文字の如く、同じ「かんり」でもその内容、意味合いが違って来ます。
では何故CM業務で建築工事するとコストダウンにつながるのか?まず下請け業者さんがそれぞれ元請けになって、発注者と工事契約又は注文書・注文請書を結んで頂き、CM業務は設計監理業務と合わせ、オプション契約で業務委託契約を結びます。この内容は全て工事に関わる原価で行い、発注者に対しての金額も明らかで何の含みも有りません。
設計事務所の多くは小規模で技術屋さんだけの集団です。建設会社・ハウスビルダーのように特別な営業・役員がいるわけでも無く、販促費としてのモデルハウス・宣伝広告費も伴いません。口コミとインターネットが最大の営業手段と言えますが、そう費用は伴いません。ただ、CM業務はコストダウンするのが目的では無く、建築トータル予算の範囲で、如何に理想の「我が家」に近付けるか?プロの建築家として、常に発注者の立場に立ち、作品を残すのでは無く、一緒になって造り上げていけるのが私の喜びで有り、共通の目的だと信じています。
当社はCM業務を行うに至って、どこの団体にも加盟していません。しかし長年の実績と経験により、当社独自に、システムを構築し、資金計画から支払計画、銀行融資から保険の紹介、発注者には万が一のことを考慮して工事に伴う賠償・火災保険加入して頂きます。
労災に関しては各業者が元請けになるのでそのことを契約書・注文書にもうたっています。大工さんらに多い一人親方に関しては建設業等の共済保険に加入するよう薦めています。当社もリスク回避するために、通常の労災に加え、年間で工事賠償保険、任意労災保険、建築士賠償保険に加入しています。
工事終了後のアフターに関しては、私の方に直接言って頂くようにしていますが、万が一のため、工事施工業者及び仕様材料一覧表も発注者に渡しています。加えて、分離発注の場合でも10年の住宅瑕疵担保責任保険の内容を確認して頂き、加入は施工業者(グループ)ですがその分の経費も元々見ていないので、発注者に費用負担して頂く事になります。
写真左は挾間の家(整骨院併用住宅)・・・平成17年(2005年)CM業務
写真中央は金池南の家・・・平成20年(2008年)CM業務
写真右は賀来の家(整骨院併用住宅)・・・平成21年(2009年)CM業務

工事施工会社が工事するのと、CM業務として設計者が自ら工事に深く関わるのと、目的が全く異なります。与えられた設計図・仕様通りの工事して、決められた予算の中で、如何に利益を残すかが建設会社の主たる目的で、これは当たり前のことです。しかし、設計事務所が関わっていくと、発注者との協議で、設計図・仕様変更も自ら行うので、計画変更等役所に必要な場合はその手続きも覚悟の上です。つまり、設計段階では見えなかった発注者が望む内容を一緒に協議し、場合によっては設計サイドからも提案しながら「遊び楽しむ」事が出来ると言うことです。それは、費用がかかることも有るでしょうし、かからないことも有ります。予算の範囲で費用コントロールすることも、よりやり易くなるのは必然です。
住宅設備、仕上げ材料の当初見積はあくまでも予算取りとしてとらえて頂き、工事工程に間に合う範囲でギリギリまで検討し発注することにも融通が利きます。CM業務は工事の一括請負契約では無く、業務に関する契約なので、工事がスムーズにさえ動けば、極端な話、頑張っても頑張らなくても契約に関わる金額には変動有りません。こだわればこだわるほど発注者の負担も増えるかもしれませんが、それらも含めて一緒に楽しめたら良いものが出来る。と常々感じながら作業しています。
写真は鴛野の家・・・平成28年(2016年)CM業務