耐震等級の罠

ユーザー 木の家プロデュース 明月社 山岸飛鳥 の写真

耐震等級とはなんぞや という話は、このサイトを見に来るほどの方ならばすでに知っていると思う。

念のために書いておくと、建築基準法ギリギリが等級1、その25%増の揺れに耐えるのが等級2、59%増に耐えるのが等級3 ということになっている。

建築基準法ギリギリだって、決して弱いわけではないので(弱かったら法律として問題です)、等級2や3ならすごく安心だね という話だった。

ところが、昨年4月の熊本地震で住宅業界に衝撃が走った。
耐震等級2の住宅が、ものの見事に倒壊してしまったからだ。

上記の写真は日経新聞2016年6月7日(http://s.nikkei.com/2idH4x1) よりお借りしました。

これが問題の倒壊した耐震等級2の住宅。
私も、これを見てかなりビビったのをよく憶えている。

相当ビビったので、このブログの昨年11月9日にもこの話題を書いている。
このときは、同じ耐震等級2でも、構造計算をしているものと、していない簡易計算のものがあるよ という話を書いた。

あれから1年。
やはり、耐震等級2だけで満足するのではなく、構造計算してあることが重要だという認識は変わらない。ただ、もうひとつ大事なことがある。

同じ構造計算でも、無理矢理にOKにする場合と、余裕でOKになる場合とがある。
無理矢理でももちろん基準内なのだけれども、だいたいギリギリになるのは「偏心率」と「床倍率」いう数字だ。
簡単に言うと、耐力壁のバランス。北側に壁が多くて南側に少ないとか、リビングがメチャ広くて間に壁がないとか、変形した土地に無理に作ったプランや、デザイン優先で変わったプランになると、結構苦しいことが多い。

デザインの問題はなくても、設計者に構造の心得がないと、「あれ、ぜんぜん壁がないじゃん」というプランは珍しくない。
そんな苦しいプランでも、なんとかしてOKにするのが構造担当の仕事だったりするのだけれども、やはり苦しいOKと、余裕のOKでは、実際の強さは違うだろうなあ と思う。

地震で家が壊れるというのは、ハンマーで一撃にされるのではなく、ぐらぐらと何度も揺れ動いた挙げ句に柱が抜けたりして倒壊する。要するに、揺れるときの動き方で家の命運は決まってくる。
苦しいOKの場合はだいたいバランスがよくないので、1箇所に力が集中する動き方になりやすい。
余裕のOKの場合は、全体に均一に力がかかる動き方をする。

家全体の耐力は同じでも、バランスの取れた家のほうが絶対に安心だ。

同じ耐震等級2とか3であっても、そこまで配慮した家じゃないと、本当に安心とは言えない。
逆に、等級は1であっても、実は結構余力のある家というのもある。

一般の人にもわかりやすいように「等級」というものが作られたのだが、そのせいで見えなくなっているものもある。
耐震等級の罠にはまらないように、気をつけていただきたい。