準棟纂冪に技を感じる
京都の町家には、「通り庭」という独特の細長い吹抜空間が存在する。町家の表通りの玄関部分から裏庭へと通された土間スペースで、基本的に建物の南か東に配される。ここには表から順にミセニワ、ゲンカンニワ、ハシリという呼び分けがあり、奥に進むほど、よりプライベートな空間構成となっている。井戸・水屋・竈(かまど)といった現在でいうところのキッチンもこの場所に計画されている。
この「通り庭」という土間の空間と、それにそった「いえ」という部屋の連なる空間によって、町家は計画されているのだが、この吹抜土間空間は、人と物と風の通り道として実に多機能かつ合理的に考え出された仕組みになっている。京都独特のうなぎの寝床という細長い敷地を上手く利用するため、内部に大きな細長い吹抜をつくり、それを介して、通風・採光を各部屋に確保し、快適な居住環境を形成する。その上、通常は屋外で使用する竈を屋内で使用するため、上部に吹抜を設け、床を土間とすることで、火災の危険性を大幅に低減させている。
ちなみに、通り庭上部の吹抜部分には火袋と呼ばれる部分があり、煙や室内の熱気を排出したり、高窓によって採光を計る機能を持っている。また、建物の南か東に統一された、この吹抜が、火災時の延焼防止の役割も果たし、高密度な都市空間の中での防火機能を持つ緩衝体の機能を形成している。さらには衛生面でも、くみ取り式便所の肥桶の通り道として、玄関から奥庭まで、土間であることが有用だった。
そんな、通り庭の吹抜空間をふと見上げると、ジャングルジムのような立体格子状の「化粧小屋組」が威容を誇る。この雄大かつ繊細な小屋組は「準棟纂冪(じゅんとうさんぺき)」とよばれ、独特の木組みの構成美は、町大工の腕の見せ所であった。 写真は、京都大黒町織成館の準棟纂冪。町家暮らしに職人の技の世界を身近に感じる。そんな思いで普段見ることのない、通り庭を見上げてみると、新しい発見と出会うことになる。