雲南省の古民家を改修したリゾートホテル

ユーザー 堤由匡建築設計工作室 堤由匡 の写真

 広島の一級建築士事務所 堤由匡建築設計工作室です。弊社で設計・監理を担当しました古民家を改修したリゾートホテルの紹介をさせてください。プロジェクト所在地は中国雲南省ですが、日本の古民家改修にも参考とできることがあるのではと思い投稿させていただきました。
 クライアントは北京に本社を置くリゾート開発、運営及び文化事業を行っている会社で、ホテルの立地には強いこだわりを持つ人たちでした。中国の都市部の発展は周知の通り目を見張るものがあり、人々のストレスも日本と同様、とても大きなものになっています。そのような都市部の人間が、家に帰ってほっとできるようなホテルを作る、という強い信念がありました。
 そこで、私を含め数名の建築家が、設計を前に雲南地方を約10日間、敷地候補の調査に向かいました。雲南省の麗江、大理、シャングリラなど、気候も違えば、住む民族も違う、そして彼らの住む民家も全く異なる構造を見せることに、東大原研の集落調査(東大名誉教授 原広司先生の有名な研究)を追体験しているような興奮を持ちました。これは成果物として完成した建築以上に、私の経験の糧となりました。
 北京に帰って案を作り、晴れて設計を正式に受注することになりましたが、同時計画の他の系列ホテルの建築家はNeri&hu, 华黎という中国のみならず今や世界的なビッグネームと名前を並ばせていただきました。

 我々の敷地の雲南省麗江市は少数民族のナシ族が首都としていた場所で、現在は世界遺産の街として多くの観光客を集める街です。残念ながら街の中心地は観光地化が激しく、商業主義にまみれた俗な町並みとなってしまっていますが、我々の計画するホテル所在地は市中心地から車で20分ほど離れた白沙村という、ナシ族の伝統的建築が残る牧歌的な村にあります。村に残る伝統的な建築物は現地で採れる五花石が多用されており、ここにしかない美しい風景を作り出していました。

ナシ族のお婆さんたちと伝統的な石積み壁。

現地で採れる五花石。数種の色の美しい組み合わせが特徴的。

敷地に残る古い門。てりのある屋根、五花石の美しい壁、棟の上の魔除けの猫瓦。当然、これを残して活用することにしました。

奥に見えるのが玉龍雪山。右側は活用する既存建築。雪山の景色がいろんな場所から楽しめるような設計を目指します。

第一のコンセプトは周囲の集落と調和させること。私たちは周囲の集落の建ち方を研究し、その結果、4つの建物が中庭を囲む、いわゆる四合院形式に則って配置されていることに気がつきました。そのため、集落の町並みはてり(反り)のある瓦屋根が交互に並び心地よいリズムを刻んでいました。我々の設計する建築もそのリズムに同調すべく、四合院形式に則った規則的な屋根配置を取ることにしました。

第二のコンセプトは雪山を望む多様な居場所を作ることです。玉龍雪山は現地で信仰の対象となる一番重要な存在であり、現地住民も旅行者も常に雪山がどこに見えるかを気にしています。私も滞在中、常に雪山はどこだろうと注意を惹かれ、存在が感じられるだけで安心感を感じるようになってきました。ここに宿泊する人にとって、どこからでも雪山が感じられるのは非常に重要なことでした。そのため、屋根と規則性とは対象的に、プラットホーム(展望スペース)を自由に設置しました。

第一のコンセプトの規則性と、第二のコンセプトの自由性がぶつかりあうと、そのズレたスペースに心地よい空間が発生してきます。木造の架構が露出した半屋外スペースや、瓦屋根にくっついてフラットルーフの展望スペースなどです。

第三のコンセプトは、現地の素材を現代的に昇華させることです。リゾートホテルという機能上、宿泊客を強く惹きつけるデザインが要求されますが、それは現地の文化と歴史に添わなければ単なる商品デザインとして消費されてしまいます。例えば現地の五花石を多用する外壁を作りましたが、平面が台形になるように切り出し積み上げることで、積層面を隠し、軽く見えるが重厚さも感じるような人間の知覚を揺さぶるようなデザインを試みました。

また客室内では現地のトンパ紙という手漉き紙を利用して印象的な光壁を作りました。合わせガラスで挟んでいるため、ガラスの硬質な質感だと落ち着きが出ないため、表面にグラデーション状の木格子を設置し、温かさが出るように工夫しています。