教会建築は心を合わせて
建築設計事務所にはあらゆるご要望が寄せられますが、宗教建築もその一つ。
弊社も神社の社務所やお寺の改修などを依頼されたことがありますが、ある時、キリスト教会からのご相談がありました。
実はその数年前に梅雨末期の暴風雨で、京都府北部に甚大な水害が発生していたのです。
その際には、川に取り残された人々が救助を待つニュースを呆然と見ていたのですが、その後、教会の牧師様からご相談のメールが舞い込んだのです。
指定された場所に行ってみると、そこは海辺のお屋敷。
立派な日本家屋だったのですが、不同沈下を起こして床も建具も傾いています。
お会いした牧師様はなんと若い男女で、心の底から清いからでしょうか、まばゆい光に包まれたような、清々しく、なんとも美しいお二人だったのです。
写真:外壁の光の十字架
お二人は指導役の牧師様と新しく教会に赴任する牧師様とのことで、お二人のお話をお聞きしました。
水害で地域の教会が使えなくなってしまったこと。
新しい教会を持つべく、みんなで献金を重ねたこと。
やっとこの屋敷に巡り合い、ここに祈りの場を持ちたいこと。
立派なお屋敷なのでここをリフォームして使えるか、新築したほうがいいか。
そのお屋敷はお金持ちの別荘として使われていたらしいのですが、広範に傷みが広がり、面積があるだけに、改修して不特定多数の人が出入りできるようにするには、費用がかさみそうとお伝えしました。
信徒様とのご相談の上で、改装のために集めた費用で新築しようと決まりました。
写真:木の香りのする礼拝堂
礼拝でなくても信徒様が集まりたくなる、カフェのような教会にしたい。
荘厳というより、優しく温かい礼拝堂にしたい。
工事費の不足する部分は信徒様がお手伝いしたい。
海が見えるこの眺望を生かしたい。
礼拝堂はできるだけ柱が邪魔にならずに大空間を作る、牧師様の生活空間も信徒様のための空間も作る、予算内に収める・・・
現実的な問題もその都度、牧師様や信徒様と話し合いながら、設計を進め、ついに工事が始まりました。
上棟式には賛美歌を歌い、仕上げ工事には信徒様が大勢参加し、工事が出来ない方は食事の用意をするなど、手作りの工事が順調に進みました。
写真:クリスマスの風景
教会の工事が終わり、あとは外構工事だけ。
となった段階で、今度は大雪がやってきました。
一年で一番賑やかな行事のクリスマスは、目前です。
外構工事は雪解け以降に後回しにして、急いで完了検査を受け、無事、クリスマスの日を迎えることができました。
写真:雪の朝の教会
信徒様が大勢で工事のお手伝いをされるなか、不思議な感覚が湧き上がりました。
教会を作る工事の最中なのですが、逆に、目に見えない遺跡から、力を合わせて教会を取り出しているような。
クリスマスの礼拝で、牧師様が「神様が、みんなでみんなの教会を作る機会を、与えてくださった。」とご挨拶され、とても心に響きました。
写真:教会夜景
祭壇に立つと、海からの光が礼拝堂に差し込みます。
明るさを抑えた礼拝堂は木の柔らかさに包まれた落ち着いた空間に、光あふれる信徒様のためのスペースは一転してカフェのように楽しい空間に。
この教会が信徒様の心の拠り所となるよう、どんな時も誰もが受け入れられる場所になるよう、願っています。