台所から始まる「丁寧な暮らし」食空間を再考し、キッチンを憩いの場と作業の場を融合して地域と暮らしの恵みを活かすそれぞれの住まい手、家族にとって程よさを持った家づくりのデザイン提案の根底に。

ユーザー やまぐち建築設計室 山口 哲央 の写真

※和をモダンに程よく詰め込んだ生活空間の提案設計CG
住まい造りについていろいろと

現代台所の考察。

進化しているようですが

退化する現代の台所事情・・・・・。

アトリエでも

古い本を整理したり

カタログを整理したりすることも

多いのですが

いろいろな時代背景を持った

資料も置いてあります。

その時代その時代の

新しい住宅の写真が

掲載された資料です。

中にはずいぶん古いものもあって、

ついつい片付け途中でも

開いて見てしまいます。

古いといっても

20〜30年程度ですが、

新しいものと見比べていると、

日本の住空間は

地域性や個性を失い

あるいみで

画一化している気がします。

そして特に気になったのは、

キッチン周辺への

「こだわり」のようなものまで

「退化」してきたように

思える事です。

長い間

設計やデザイン

暮らしの提案と

あたらしく住まいを設ける際の

お手伝いをしてきて、

多くの家庭で

台所へのこだわりは

「最後の砦」であるかのような

場面がありました。

その家それぞれの

「食べることの作法」みたいなものが

ある訳です。

しかし、

最近になればなるほど

そういった「雰囲気」を

感じるものが

減りつつあるのです。

専業主婦家庭は

いまや少数派であり、

女性の社会進出・共働き家庭が

標準になってきた

影響もあるのかもしれません。

台所に立つのも

夫婦ともに同様の頻度になり、

台所に対する嗜好も

場合によっては

平均化されているのかもしれません。

振り返ってみれば

「台所の進化」は

太古の時代からの

「火の使い方の進化」とも言えます。

ある研究者が

地球上の広範囲の台所のルーツに繋がる

資料を収集したところ、

地球の赤道と

北極の中間

(北緯40度前後、日本では秋田県あたり)で

火の文化が二分されていたそうです。

北緯40度あたりから

北方は季節による

昼夜の差が大きくなります。

寒くて暗い冬を凌ぐには

灯りと暖房の両方が必要です。

大きな火を囲み、

暖をとりながら

調理もするというスタイルが

基本になりました。

大きな住居でも

納屋や畜舎を除く

住まい部分は一室同然で、

火の勢いを妨げないよう

鍋を高いところから吊るし、

火加減は鍋と火の距離を変えて

調節していました。

キャンプの焚き火の要領です。

そういう成り立ちから、

北の国の台所は

単なる調理場ではなく

家族の空間なのです。

キッチン(Kitchen)は元来

「火を使うところ」を表す言葉で、

ヨーロッパのダイニングルームは

ディナーをとる

部屋だったのだそうです。

主に大人の交際に

使われるかしこまった場所であり、

そこには子供は

加わらないのが普通でした。

古くから

狩猟民族が住んでいた

北の国では、

食べ物が得られたときは

まず保存食

ハム・ソーセージ・チーズ・ジャム

ビン詰め野菜などに加工し、

余った部分から

日常の食事にまわす習慣が

できました。

1日2食は火を使わない食事

(コールドミール)で、

多くの地域では

昼食のみ火を使った

温かい食事を作って

テーブルを囲んだのだそうです。

現在でもコールドミールの

習慣は広く残されています。

南の地域では

年間を通じて

気温・昼夜の差は

少なくなります。

冬季の暖房も

部分的な使用で間に合うので、

火は調理の際にだけ

使うスタイルになります。

また、

熱が効率よく伝わるように

台の上で小さな火を焚きました。

高温多湿の南の地域では

食料は豊富ですが

食べ物の傷みも早いので、

食べる直前に調理する

習慣になっていきます。

南の地域では

調理のために

火を焚くところが台所であり、

くつろぐ場所とは別に

屋外や別棟として

発達してきました。

北の地域は

火の場所中心ですが、

南の地域、

特に日本では

食事は常に温かいことが

原則でしたので、

水を使う流しのほうが

中心になってきました。

油を使う揚げものや炒めものは、

小さな火で都度食事を作る

南の地域で発展してきた

調理方法です。

北の国の「キッチン」は

家族の場ですが、

南の国の「台所」は

作業場の正確が強かったのです。

保存食中心であった

ヨーロッパ地域に対して、

四季の食材が豊富である

日本では

季節ごとに料理や食器の

組合せも多様に発展してきました。

それ故に、

世界の人から特別に評価され

「ユネスコ無形文化遺産」に

登録されました。

日本の家庭の食器棚が

片付かないのも、

そう考えると

やむを得ないのかもしれません。

システムキッチンよりも、

そのような時代のほうが

長かったのですから。

「台所」が「Kitchen」になった頃。

「Kitchen」輸入の前後

日本の「台所」が「Kitchen」になったのは

いつの事だったのでしょうか?。

そのきっかけは、

やはり戦後の日本住宅公団の

新しい集合住宅団地の

住戸モデルの

打ち出しです。

公団はその住戸バリエーションのタイプを

2DKとか3DKといった

nDK(n=個室の数)という

表記で表すようになりました。

これは後にnLDKとなって

現在でも住宅の

間取りタイプを表す主流です。

この頃から「台所」は

Dではなく「Kitchen」のKに

なったというのが

有力な説です。

先に述べたように日本では、

主食の米は各家庭の台所で

原材料から都度調理します。

いっぽう西欧北国型の

都市部の「キッチン」では

簡単な料理が中心です。

主食材のパンは

ベーカリー(パン屋)で焼いていますし、

畜産品はほとんどが

保存加工品を買ってきます。

生鮮食品を初めから

調理する比率が少ないのです。

日本では、

季節の新鮮な食材の行き来や

下ごしらえが頻繁なので、

「台所」は開放的で

外と繋がった形態で

発展してきたのですが、

「Kitchen」になってから

異文化と混ざりあったのです。

そして、

産業構造の変化と

人口の増加・集中によって

新しく効率的な住宅が

量産される中で

今日に至っているという訳です。

西欧の「Kitchen」が

日本に紹介され始めた頃、

大きな調理机(パスタなど小麦粉をこねる粉台)も

備えられていました。

しかし、

狭い集合住宅には

導入しにくい面もあり、

I型のセットキッチン→システムキッチンが

定番となっていきました。

当時はまだまだ

専業主婦が圧倒的主流の時代でしたが、

早くも泥付き野菜や

まるごとの魚などの下ごしらえには

不向きのスタイルになっていた訳です。

保存食加工品中心の食生活は、

新しい住宅の台所が

先行する形で拡がっていきましたから。

それまでの日本の台所が

バラバラ配置でだだっ広かったのは、

一度に大量の保存食加工を

するためです。

漬物をつけるのに

まる1日かかっても、

それで1ヶ月は

食べることができました。

味噌づくりに

3日3晩かかったとしても、

それを3年食べれた訳です。

工業化を進め

先進国の仲間入りを目指す

日本の社会の中で

食事を作る場所は、

1年の計で能率を求める「台所」から、

その日の都度の

能率を求める「Kitchen」へ

変革されていきました。

そういう背景から、

現在のキッチンの

原型ができあがっていった訳です。

「食べる」ということには

極力労力を割かず、

家の外で働いて

現金収入を最大化するための

スタイルです。

現代のキッチンは、

言わば勤労家族のための

キッチンなのです。

そういう意味ではたして

キッチンは進化しているのでしょうか?。

あたらしい台所観。

ある著名な料理家は、

意外にも小さくて狭い

普通のキッチンで

料理をしておられるそうです。

なぜかというと

「私は家庭料理を作っている以上は、

日本の狭いキッチンで生み出すしかないんです。

私が広いキッチンを持ってしまうと、

今の日本の家庭料理の

現状に合わなくなってくるんです」との談です。

立派なプロ意識の現れですが、

さみしい気もします。

持ち家も含め、

生活の中で理想のキッチンに

向かえる指標に

成長するよう願いたいと思います。

「需給ギャップ」が

「暮らしのあり方を見つめるキッカケ」をうむという事。

意外と外国人のキッチンは、

先進国においても

一生懸命自分でカスタマイズしています。

使う人や作る料理に応じて、

つくり込んでいるのです。

多様なルーツの市民が

存在するという

事情もあるのかもしれません。

日本の場合、

戦後の復興や単一民族であること、

メーカーによる供給の

寡占化といった

事情も手伝って

極端に画一化しすぎているようです。

季節・食材・料理・食器が

多様なのにもかかわらずです。

日本通の外国人からは、

このことについて

「どうしてなのか???」と

よく尋ねられます。

歴史と現在が合わない民族が、

大変奇妙に見えるのだそうです。

選択肢は色々とある事は

よい事ですが

本質から考えた際に暮らしにとって

キッチンがどうあるべきなのか?

「選択肢の設定そのものが違っている」

とならないように、

家造りの際には

様々な観点から「台所」を

考える事で

暮らしの豊かさが

よりよくなるようにと思います。

丁寧に暮らす余白を台所周辺から

家全体の過ごし方に。

住まいの新築・リフォーム
リノベーションのご相談・ご質問・ご依頼は
■やまぐち建築設計室■
ホームぺージ・Contact/お問い合わせフォームから
気軽にご連絡ください。
-------------------------------------
■やまぐち建築設計室■
 建築家 山口哲央
奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
https://www.y-kenchiku.jp/
-------------------------------------