“失敗防音室”にしないために

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「防音室をつくれば安心」と思っていたのに、実際に完成してみると
「思ったより音が漏れる」「響きが悪くて練習しにくい」「暮らしに不便」──。
そんな“失敗防音室”のお話を耳にすることがあります。

では、なぜそのようなことが起きてしまうのでしょうか?
ここではよくある失敗例と、その解決のヒントをお伝えします。

1. 「遮音材を貼れば大丈夫」と思ってしまう
防音室と聞くと、分厚い壁材や防音シートを思い浮かべる方も多いでしょう。
確かに遮音材は必要ですが、それだけで完璧になるわけではありません。
音は壁だけでなく、床・天井・ドア・換気口・配管などあらゆる経路から伝わります。

遮音材を貼っても、ドアの隙間から音が漏れたり、低音が床を通して響いたりすれば効果は半減。
「材料頼みの防音」ではなく、構造全体で音の伝わり方を考えることが大切です。

2. 音質を考えず「静かさ」だけを重視してしまう
防音性能ばかりに目が行くと、室内の音響環境が置き去りになりがちです。
たとえば、壁や天井を硬い素材で覆いすぎると音が反射しすぎて耳が疲れてしまったり、
逆に吸音材を入れすぎると音がこもって練習がしづらくなったりします。

本当に必要なのは、楽器に合った響きを整える音響設計です。
ピアノ、ヴァイオリン、管楽器、声楽──どの楽器かによって理想的な残響時間や響きは違います。
「静けさ」だけでなく、「心地よい音」を両立させる視点が欠かせません。

3. 換気や暮らしやすさを見落としてしまう
防音室はどうしても密閉性が高くなります。
そのため、換気や空調を十分に考えないと「息苦しい」「夏は暑い」「冬は結露」という不満が出てきます。
また、収納や生活動線を考えないと「楽器は守れるけど家族に不便」という事態になりかねません。

防音室は「家の中のひと部屋」ではなく、暮らしとつながった空間です。
防音と同時に、快適さ・採光・収納・家事動線まで計画に組み込むことが必要です。

4. 将来の使い方を見据えていない
子どもの成長に合わせて楽器や練習時間は変わります。
今はアップライトピアノでも、将来はグランドを置きたいかもしれません。
あるいは、音楽教室として使う可能性もあります。

今の状況だけでつくると、数年後に「やっぱり足りなかった」と後悔することに。
将来の変化を見越した柔軟な設計が、失敗しないポイントです。

まとめ:防音室は「部屋づくり」ではなく「計画」
よくある失敗防音室の共通点は、部分的な対策に頼ってしまうことです。
遮音材や吸音材といった素材に偏ったり、「とにかく静かにすればいい」と考えたり──。

本当に必要なのは、

遮音・吸音・構造・換気を含めた総合的な防音計画

楽器に合った音響環境のデザイン

家族の暮らしや将来を見据えた住宅全体の視点

防音室は“箱”ではなく、“家族の音楽を支える環境”です。
防音室だけを切り離して考えるのではなく、家づくりと一体で考えることで、
初めて「失敗しない防音室」が実現します。

「遮音材を使うかどうか」ではなく、家族と音楽に合った暮らしをどうデザインするか。
それこそが、防音室づくりの本当の鍵なのです。