車椅子の動線と家具配置って重要です

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

家づくりやリフォームの打ち合わせでは、間取りやデザイン、収納量などが注目されがちです。

しかし、車椅子で生活する方にとっては、それ以上に重要なのが「動線」と「家具配置」です。

これを考慮していない家は、一見きれいに整っていても、実際には大きな不便や危険を抱えることになります。

1. 通れるはずの廊下が家具でふさがれる
図面上では車椅子が通れる幅を確保していても、実際の暮らしでは家具や収納が置かれます。

リビングにソファを置いたら通路が狭くなり、テーブルの角が動線を妨げる。廊下にちょっとした収納家具を置いたら、それだけで回転できなくなる。
結果として「通れるはずの道」が、家具ひとつで「通れない道」に変わってしまうのです。

2. 行き止まりで立ち往生する日常
車椅子は人の身体よりも大きく、方向転換には「回転半径」が必要です。

リビングや寝室に家具を詰め込みすぎると、いざ方向を変えようとしても動けなくなります。

特にトイレや浴室前で立ち往生する状況は、毎日の暮らしに大きなストレスを与えます。

介助が必要な場合は、さらに家族も一緒に身動きが取れなくなり、安全性すら脅かされます。

3. 介助者との動線がぶつかる
家具配置を考慮しない家では、車椅子の動線と介助者の動きが交錯します。ベッド脇のスペースが狭いために介助者が立てない、キッチンに入れたもののすれ違えない、そんな状況は介助する側にも大きな負担になります。

家族全員にとって暮らしにくい家は、やがて「この家では安心して暮らせない」という思いを強めてしまいます。

4. デザイン優先の落とし穴
見た目を優先して家具を選んだ結果、車椅子での生活に不適合というケースも少なくありません。

大きなダイニングテーブルや重厚なソファは見栄えが良くても、動線を塞ぎ日常を不便にします。

デザイン性と機能性のバランスを欠いた家は、結局「暮らしにくい空間」になってしまうのです。

5. 解決策は「動線シミュレーション+家具計画」
こうした悲劇を避けるには、設計段階から「家具を置いた状態での動線シミュレーション」を行うことが不可欠です。

図面上で空白を残すのではなく、実際に家具を配置し、車椅子でどう動けるかを検証する。

家族や介助者が一緒に使う状況まで想定する。

そうして初めて、本当に暮らしやすい家が実現します。

まとめ
車椅子で生活するご家族にとって、家具は単なるインテリアではなく「動線を左右する要素」です。

動線を考慮しない家具配置は、毎日の生活を不便にし、ときに危険すら招きます。

大切なのは、「見た目」や「部分的な使いやすさ」だけにとらわれず、家全体の動線と家具配置をセットで考えること。

そうすれば、家族全員が安心して暮らせる、本当の意味で快適な住まいが実現できるのです。