【車椅子】介助者の動線を無視した家は、家族の負担を増やします
建てる、あるいはリフォームをする。
そのとき多くの人が「本人が使いやすいかどうか」を最優先に考えます。
もちろんそれは大切な視点です。けれども、もう一つ忘れてはならないのが「介助者の動線」です。
介助する家族や支援者の動きが考慮されていない家は、結果的に家族全体の負担を大きくしてしまいます。
いくらバリアフリー設備を整えても、「介助がしづらい家」では暮らしの質は向上しません。
1. 狭い廊下や扉で介助が困難になる
車椅子の移動経路を確保していても、介助者が並んで歩けない幅では意味がありません。
たとえばトイレや浴室の出入口で、介助者が横に立てない。
ベッド横のスペースが狭くて、身体を支える姿勢が取れない。
そんな小さな不便が、毎日の生活の中で大きなストレスとなって積み重なります。
介助には、「押す」「支える」「持ち上げる」「向きを変える」といった動作があります。
どれも少しのスペース不足が重大な負担になります。
家族の腰痛や転倒事故など、身体的な影響にまで及ぶことも珍しくありません。
2. 家族の「安心できる時間」を奪う
介助者の動線がスムーズでないと、本人の動作のたびに付き添いが必要になります。
「自分でできることも、見守りがないと不安」
――そんな状況が続くと、家族の生活時間はどんどん制約されます。
介助がしやすい家は、本人の自立を支えると同時に、介助する家族にも「安心して任せられる時間」を生み出します。
動線設計は、単に使いやすさだけでなく、家族全員の自由と心の余裕に直結するのです。
3. 見落とされがちな「交差する動線」
リビングやキッチン、洗面所などの共用空間では、家族と介助者の動線が交錯します。
通路の幅が足りず、すれ違うたびに譲り合い。
ドアの開く方向が逆で、介助中にぶつかる。
こうした「動線のぶつかり」は、日々の小さなストレスを増やします。
ほんの数十センチの違いで、介助者のストレスが大きく変わる。
4. 解決のカギは「家族全員の動線シミュレーション」
介助者の動線を最適化するには、設計段階で家族全員の生活を具体的にシミュレーションすることが欠かせません。
車椅子での移動ルート
介助者が立つ・支える位置
家族の通行ルート
これらを「線」で描き、実際の生活を想定して重ね合わせることで、初めて最適な動線設計が見えてきます。
特に、介助する家族の動きやすさを設計に反映できる建築家は、まだまだ少ないのが現状です。
まとめ
車椅子利用者の暮らしを支える家は、本人のためだけではなく、介助する家族のための家でもあります。
動線設計を本人だけで終わらせると、介助者の負担が増え、家族の時間も心の余裕も奪われてしまう。
本当にやさしい家とは、家族みんなが無理なく支え合える家。
そのためには、「介助者の動線」まで見据えた設計が欠かせません。
家族の笑顔を守る家づくりは、細やかな動線設計から始まります。