建築家とつくる“音のバランス”

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ピアノの音がリビングに心地よく響く家。
ヴァイオリンの音が夜でも家族の会話を邪魔しない家。
それは、ただ「防音性の高い部屋」をつくるだけでは実現できません。
大切なのは、“音のバランス”を考えることです。

1. 「静かさ」だけでは、良い音にならない
防音室というと、「音を外に出さない」「静かにする」と考えがちですが、それだけでは十分ではありません。
音は“閉じ込めれば良い”ものではなく、“どう響かせるか”で快適さが変わります。
壁や床の素材、天井の形、部屋の寸法や家具の配置まで──
ほんの少しの違いが、響き方を大きく変えるのです。

音が反射しすぎると耳が疲れてしまい、吸音しすぎるとこもって聞こえる。
この「響きすぎず、吸いすぎず」のちょうど良い中間点を探るのが、建築家の腕の見せどころです。

2. 建築家が考える“音の設計”
建築家は、単に部屋をつくるのではなく、空間そのものを“楽器”としてデザインします。
たとえば、天井を少し傾けて音の反射をコントロールしたり、床材を変えて音の厚みを調整したり。
防音だけでなく、家族の会話・外の自然音・楽器の響きが心地よく混ざり合うように空間を整えるのです。

また、家の中のどこに防音室を配置するかも重要です。
玄関からの距離、隣家との間隔、寝室との位置関係など──
家族の生活リズムと音の流れを両方考えたうえで、音と暮らしが調和する設計を行います。

3. “暮らしの音”もデザインの一部
建築家がつくる防音室は、楽器のためだけの場所ではありません。
ピアノの音、話し声、雨音、風の音、そして静けさ。
そのすべてを「家族の音」としてバランスさせることが、本当の意味での“音の家づくり”です。

たとえば、子どもの練習をキッチンから聴ける距離感。
家事の音が演奏を邪魔しない動線。
リビングに広がる残響の心地よさ──。
これらを計算しながら設計できるのは、音と建築の両方を理解している建築家だからこそ。

4. “音の専門家”と“建築の専門家”が手を組む
音楽を理解する楽器店や音響のプロと、空間をつくる建築家が組むことで、
初めて「音のバランスが整った家」が生まれます。
それは、“静けさ”と“響き”が共存する家。
お子さまの音が、家族の暮らしに自然に溶け込む家。

防音室を「閉じる空間」ではなく、「開かれた暮らしの一部」として設計すること。
それが、建築家とつくる“音のバランス”の本質です。

音を抑える家ではなく、
音を整える家へ。
そこにこそ、家族の豊かな時間が生まれます。