ただの個室ではない、“楽器室”という選択

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子どもがピアノやヴァイオリンを習い始めると、
「どこで練習させるか」が次第に大きな悩みになります。

リビングではテレビの音とぶつかる。
子ども部屋では音が外に漏れる。

防音室という言葉は知っていても、そこまで大げさにするのも…と感じる方も多いでしょう。

でも実は、“個室”と“楽器室”はまったく別の空間。
その違いを理解するだけで、音楽との暮らし方が大きく変わります。

1. “個室”は「閉じる部屋」、楽器室は「響かせる部屋」
個室は、基本的に「静かに過ごすための部屋」。
外の音を遮り、内の音も漏らさないことを目的としています。

一方、楽器室は“音を響かせるための空間”です。
単に防音するだけでなく、**「良い音で聴こえるように整える」**ことが重要になります。

壁や天井の形、床材の種類、家具の配置──。
それぞれの要素が、音の反射や吸収に影響します。

響きすぎると音が混ざり、吸音しすぎるとこもってしまう。
その“ちょうど良いバランス”を探るのが、楽器室づくりの本質です。

2. 家族が応援できる“開かれた防音室”に
防音室というと、「閉ざされた空間」を想像しがちですが、
建築家と一緒につくる楽器室は、家族とのつながりを考えた“開かれた空間”です。

たとえば、キッチンやリビングからガラス越しに見える位置に配置する。
扉を開ければ、音が家の中に心地よく広がるように設計する。
そんな工夫で、「音を閉じ込める部屋」から「家族で音を楽しむ部屋」へと変わります。

お子さまが練習する姿を、家族が自然に感じられる。
その距離感が、音楽を続ける力になります。

3. 将来を見据えた“音の空間設計”
楽器室は、お子さまの成長に合わせて使い方を変えられるのも魅力です。
小さなうちは親子で練習するスペース。

やがて一人で集中する練習室に。
将来的には趣味の部屋や書斎としても使えます。

「音を整えるための部屋」は、実は“暮らしの質を整える部屋”でもあります。
静けさを保ちながら、自分の世界に没頭できる空間は、家族全員にとって価値のある場所です。

4. 建築家と音の専門家が手を組む理由
楽器室は、ただの“箱”ではつくれません。
音の響きをコントロールしながら、構造・通風・採光・デザインをすべて整える必要があります。

そのため、建築家と音響のプロが協力することが欠かせません。

防音性、音響、デザイン性、暮らしやすさ──。

そのすべてを両立させることで、ようやく“本物の楽器室”が完成します。

まとめ
楽器室とは、「音を閉じる部屋」ではなく、「音と暮らす部屋」。

お子さまの音が、家族の暮らしのリズムに心地よく混ざる。
そんな家が、これからの音楽教育の理想のかたちかもしれません。