【車椅子と暮らす】車椅子生活における「最適な廊下幅」は?

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車椅子で暮らす家を設計する際、最も基本でありながら見落とされやすいのが「廊下の幅」です。
広ければ良いというものではなく、生活動線や家族構成に合わせた“最適な寸法”があります。
では、どのくらいの幅があれば、車椅子でもストレスなく暮らせるのでしょうか。

1. 一般的な基準は「有効幅90cm」では狭い
住宅の廊下幅は、建築基準法上の最低基準として75cm以上(有効幅)とされています。
しかし、これはあくまで「通過できる」だけの寸法。
車椅子の方が日常的に利用する場合には、最低でも90cm、できれば100〜120cm程度が望ましいとされています。

ただし、「通れる」ことと「暮らしやすい」ことは別問題です。
例えば、廊下の途中にドアがある、曲がり角が多い、物が置かれる――といった状況では、90cmでは十分とは言えません。

実際に生活することを想定すると、車椅子の回転やすれ違いを考えた余裕が必要です。

2. 快適に動ける幅は「120cm」が一つの目安
有効幅120cm前後を基準にすること、次のような利点が生まれます。

車椅子が方向転換しやすい

介助者が横に立ってサポートできる

家族とすれ違う際のストレスがない

特に介助が必要な場合、介助者が後ろから押すだけでなく、横で支えたり前に回り込んだりすることがあります。
そのため、「一人分+半人分の余裕」=120cm前後が快適な生活を生む幅なのです。

3. 廊下幅だけでなく「曲がり角」と「ドア位置」が重要
多くの人が見落とすのが、廊下の“途中”です。
角の位置やドアの開き方が悪いと、せっかく広い廊下でも使いにくくなります。

角を曲がる際には、回転スペースとして150cm×150cm程度が必要

ドアは引き戸にすることで、廊下を狭めずに開閉可能

扉前に70cm程度の待機スペースがあるとスムーズに通過できる

つまり、廊下の「幅」だけでなく、「動作のための余白」をセットで考えることが欠かせません。

4. 家族と共に使う“共有空間”として設計する
廊下は単なる通路ではなく、家族の動線が重なり合う場所です。
子どもが走り抜けたり、洗濯物を運んだり、介助者が通ったり。
狭いと譲り合いが発生し、日々のストレスになります。

一方で、幅を確保することで「すれ違いざまに声をかける」「自然に手を貸せる」といった、
人の温度が感じられる空間にもなります。
単に機能的な通路ではなく、家族の関係をつなぐ「生活のライン」として捉えることが大切です。

まとめ
車椅子で暮らす家の“快適さ”は、廊下幅に表れます。
基準値ギリギリでは「通れる」だけ。
120cmの余裕があることで、「介助できる」「すれ違える」「心にゆとりが持てる」家になります。

建築家として大切にしているのは、「数字の正しさ」ではなく「人の動きの自然さ」。
その人らしい暮らし方を支える設計こそが、本当の意味での“バリアフリー”です。