最初の会話で、設計者が静かに見ていること

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はじめてお会いして、
テーブルを挟んで向き合っているとき。

こちらから、
あえて多くを話さないことがあります。

沈黙が生まれる瞬間も、
少しだけ、あります。

それは、言葉を探しているからではなくて、

「その方が、何を大切にしているのか」

静かに、感じ取ろうとしている時間です。

 

家づくりの相談に来られるときって、

すでにたくさんの情報を見て、
比較して、悩んで、

「それでも決めきれない」

——そんな状態の方が、多いように思います。

 

だから最初の会話は、

要望を整理する場、というよりも、

その方の「今の心の位置」を
少しずつ、探っていくような時間になります。

 

どの言葉が強く出てくるのか。

どこで声が小さくなるのか。

何度も繰り返すフレーズがあるのか。

反対に、
触れようとしない話題があるのか。

 

図面よりも先に見えてくるものは、

数字でも
間取りでも
性能でもありません。

その人が、
どんな暮らしに安心を感じるのか。

どこに不安を抱えているのか。

それを、
ひとつずつ確かめるように聴いています。

 

ときどき、

「ちゃんと説明できなくてすみません」

そう言われる方もいます。

でも、説明できなくても大丈夫です。

むしろ、
説明しきれない感情の中に、

大事な手がかりが
隠れていることの方が多いからです。

 

最初の会話で、私は

「正しい答え」を探しているわけではありません。

 

その人が
これまでどんな暮らしをしてきて、

何に違和感を覚えて、

これから先のどんな時間を
守りたいと思っているのか。

 

その“輪郭”のようなものを、

急がずに、
静かに見つめています。

 

家づくりは、
図面から始まるのではなく、

こうした対話から
少しずつ、始まっていくのだと思っています。