暮らしが整わない理由は、片づけ不足ではない ― 建築家が考える「心の安心」と住まいの本質 ―

ユーザー やまぐち建築設計室 山口 哲央 の写真

暮らしが整わない理由は、
間取りや収納だけではありません。

ちゃんと片づけているはずなのに、
なぜか落ち着かない。

家にいる時間が増えたのに、
疲れが取れない。

家づくりやリフォームのご相談をお受けしていると、
こうした言葉を、本当によく耳にします。

多くの方は、その原因を
「収納量が足りないから」
「間取りが悪いから」
「動線に無理があるから」
と考えます。

もちろん、それらも無関係ではありません。

けれど、設計の現場で
数多くの暮らしに向き合ってきて、
はっきりしていることがあります。

暮らしの違和感の正体は、
空間そのものではなく、
その空間が生み出している“状態”にある
ということです。

外側の秩序は、内側の安心を育てる

環境が人の感情や思考に与える影響は、
すでに多くの研究で示されています。

視界に入る情報量が多いほど、
人は無意識のうちに緊張し、
判断力や感情の余白を失っていきます。

逆に、
整った環境に身を置くと、
思考は静まり、
感情は安定しやすくなる。

これは性格の問題でも、
几帳面さの話でもありません。

人は、環境の影響を避けられない生き物なのです。

家の中だけでなく、
カフェやホテル、美術館などで
「なぜか落ち着く」「気持ちが切り替わる」
そんな経験をされた方も多いと思います。

暮らしも、まったく同じです。

暮らしの秩序とは「きれいさ」ではない

ここで言う「秩序」とは、
単に物が少ない状態や、
モデルハウスのように整った空間ではありません。

・どこに立つと、何が目に入るのか
・どんな動きが、毎日くり返されているのか
・どの場所で、無意識に足が止まるのか

こうした
日常の所作と空間の関係性こそが、
暮らしの秩序を形づくっています。

たとえば、
帰宅して靴を脱ぐ瞬間。
バッグを置く動作。
上着を掛ける所作。

この一連の流れがスムーズであるだけで、
人の呼吸は、驚くほど自然になります。

家族の会話が、なぜ柔らぐのか

暮らしが整うと、
不思議な変化が起こります。

声のトーンが下がり、
言葉の選び方が穏やかになる。

これは、
「家族仲が良くなるよう努力した」
からではありません。

余計な緊張を生む要素が、
空間から取り除かれただけなのです。

安心できる環境では、
人は防御的になる必要がなくなります。

結果として、
会話は柔らぎ、
関係性には自然な「余白」が生まれる。

これは努力ではなく、
環境が生み出す変化です。

家づくりは、人生の状態を考える時間

家づくりを考え始めると、
多くの人は「理想の間取り」を探します。

けれど本当に大切なのは、
その間取りで
どんな状態で暮らすことになるのか
という視点です。

・家に戻ったとき、無意識に力が抜けるか
・忙しい日常の中で、呼吸が浅くならないか
・家族それぞれが、自分のペースを取り戻せるか

こうした問いに向き合う時間こそが、
住まいづくりの本質だと、
私たちは考えています。

住まいは、
人生の状態を映す器です。

忙しい時期につくられた家には、
どこかに余裕のなさが残ることがあります。

逆に、
暮らしを見つめ直す時間を経て
つくられた住まいには、
説明しきれない落ち着きが宿る。

これは、
意匠や金額の問題ではありません。

どんな問いと向き合ったか。
その履歴が、空間に刻まれているのです。

私たちは、
間取りやデザインを

先に決める設計は行っていません。

まずは、
暮らしの状態を言葉にすること。

問いを整えること。

そこからしか、
本当に長く寄り添える住まいは
生まれないと考えているからです。

もし今、
家づくりやリフォームを前にして
立ち止まっているなら。

それは、
「考えるべき時間に入った」
というサインかもしれません。

このブログが、
住まいと暮らしを見直す
小さなきっかけになれば幸いです。

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■やまぐち建築設計室■
奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
  建築家 山口哲央
https://www.y-kenchiku.jp/

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