図面には載らない「現地の気配」について

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

土地を見に行くとき、
私はいつも、すぐにメジャーを取り出したり、
建築条件をチェックしたりはしません。

もちろん
建築家として確認すべき数値や規制はたくさんありますが、
それよりも少しだけ先に、感じておきたいものがあります。

それが、
その場所に流れている「気配」のようなものです。

 

図面には、
敷地の形状や寸法、道路との位置関係、
周辺建物の配置がきれいに描かれています。

それはとても大切で、
設計の出発点にもなります。

でも──

紙の上では分からないことが
現地には、たくさん残っています。

 

たとえば
近くを通る車の音。

同じ道路でも、

朝と昼と夜では
聞こえ方がまったく違うことがあります。

静かに感じる時間帯しか見ていないと、
暮らし始めてから
「こんなに音がするなんて」と驚くこともあるでしょう。

 

風の通り方も、
実際に立ってみると
不思議と分かる瞬間があります。

どこから風が抜け、
どこで止まるのか。

図面では矢印で描けますが、
身体で感じる感触は、
それとは少し違うこともあります。

 

それから、
「視線」の気配。

周りの建物の窓が
どこを向いているのか。

こちらを意識しているのか、
それとも全く関係なく
お互いが自然に距離を保てるのか。

図面上では
ただの四角や丸ですが、

現地で立って見ると、

「ああ、この位置関係は少し落ち着かないな」

と感じることがあります。

 

時間帯によっても
空気は変わります。

朝は清々しいのに、
夕方になると
少しざわつく場所。

昼は賑やかで、
夜になると
急に心細くなる場所。

どちらが良い悪いではなく、

「その土地が持っている性格」

のようなものを、
そっと見せてもらっている感覚に近いです。

 

そしてもうひとつ。

そこにいる自分が、
「落ち着いて立っていられるかどうか」。

これも
とても大切な指標だと感じています。

理由はうまく説明できなくても、
なんとなく
違和感が残る土地もあれば、

特別な条件が揃っているわけでもないのに、
「ここはいいな」と
静かに思える土地もある。

 

それはきっと、
数値や条件では整理できない感覚で、

でも、
暮らし始めてから
ずっと寄り添い続ける感覚でもあります。

 

家は、
図面の上で完成するわけではなく、

その場所に建ち、
そこで暮らしていくことで
初めて“家としての時間”が始まります。

だからこそ、

図面に描ける情報だけでなく、
そこに流れている気配や
自分の感覚も大切にしてほしい。

私はそう思っています。

 

もし土地を見に行く機会があれば、

条件をチェックする前に
少しだけ立ち止まって、

風の向きや音の重なり、
空の見え方や周囲の空気を
感じてみてください。

 

「ここで暮らす自分」を
想像できるかどうか。

それは
図面には載らないけれど、
確かに存在する判断材料のひとつだと思います。