環境を“変えようとしない”という選択
土地や周辺環境を見ていると、
「ここを少し変えられたらいいのに」
「工夫すれば、もっと良くできそう」
そんな考えが
自然と浮かんでくることがあります。
設計という仕事は、
環境に手を加え、
整え、
より良い状態へ導くもの。
そう思われることも
多いかもしれません。
でも、ときどき
立ち止まって考えることがあります。
「この環境は、
本当に変える必要があるのだろうか」
音、
光、
周囲の建物、
人の動き。
それらは、
少し扱いにくく見えても、
長い時間をかけて
その場所に馴染んできた
関係性の結果でもあります。
無理に変えようとすると、
一時的には
整ったように見えても、
別のところに
歪みが生まれることがあります。
強く遮れば、
閉塞感が残る。
大きく開けば、
落ち着きが失われる。
環境に対して
「勝とう」とすると、
暮らしは
どこか緊張をはらむものに
なってしまいます。
設計の中で、
とても大切にしているのは、
環境を
コントロールすることよりも、
どう受け止め、
どう付き合うか。
という視点です。
たとえば、
音を完全に消すのではなく、
気にならない距離に
遠ざける。
光を遮断するのではなく、
和らげて取り込む。
環境を変えるのではなく、
関係を整える、
という考え方です。
「変えない」という選択は、
消極的に見えるかもしれません。
でもそれは、
諦めではなく、
その場所が
すでに持っている力を
信じる、という判断でもあります。
すべてを
自分たちの思い通りに
しなくてもいい。
環境に
少し委ねる部分を残すことで、
暮らしは
驚くほど楽になることがあります。
環境を
変えようとしない。
その選択は、
何もしないことではなく、
無理をしない
という、
とても積極的な判断なのだと
感じています。
家は、
環境と戦う場所ではなく、
環境と
穏やかに並んで
存在する場所で
あってほしい。
そう考えると、
「変えない」という選択も、
十分に
意味のある設計行為のひとつだと
思えるのです。