暮らしが土地に馴染んでいくという感覚

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

家が完成した直後は、
どこか少し、よそよそしい空気があります。

 

新しい建物。
整った外構。
まだ使われていない場所。

 

そこに暮らしが始まっても、
最初のうちは
「住んでいる」というより
「入っている」感覚に
近いかもしれません。

 

でも、
時間が経つにつれて、
少しずつ変化が起きてきます。

 

窓の開け方が
自然に決まってくる。

 

この時間帯は
この場所が落ち着く、
という感覚が
身体に残ってくる。

 

気づけば、
土地の癖や
環境の特徴に、
暮らしの方が
合わせ始めています。

 

それは、
我慢しているわけでも、
無理をしているわけでもなく、

 

「こうすると楽だな」
「この方が落ち着くな」

という
小さな調整の積み重ねです。

 

設計の段階では、
すべてを決めきることは
できません。

 

むしろ、
決めすぎないことで、

暮らしが
土地に馴染んでいく余地が
生まれます。

 

朝日が
思ったより強ければ、
少し影をつくる。

 

風が抜けすぎれば、
居場所を
一段奥にずらす。

 

そうした変化を
受け入れられる家は、
次第に
その土地の一部のように
感じられてきます。

 

土地に
暮らしを押し付けるのではなく、

暮らしが
土地のリズムを
覚えていく。

 

その関係が
うまく噛み合ったとき、

「ここに建ててよかった」

という実感は、
静かに、
でも確かに
積み重なっていきます。

 

最初から
完璧に馴染む必要は
ありません。

 

少しずつ、
時間をかけて
馴染んでいく。

 

そのプロセスそのものが、
暮らしの一部になっていきます。

 

土地と家と人。

 

その三つが、
無理なく
同じリズムで
呼吸し始めたとき、

そこは
「住まい」ではなく、
「自分たちの場所」に
なっていくのだと思います。

 

暮らしが土地に
馴染んでいくという感覚は、
完成した瞬間ではなく、

時間の中で
静かに育っていくもの。

 

それを待てる設計こそが、
長く寄り添う家を
支えているのだと
感じています。