うまく言葉にできない感覚の扱い方

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打ち合わせの中で、
ときどき立ち止まる瞬間があります。

 

「うまく言えないのですが…」

 

そう前置きされる言葉。

 

何かを感じているのに、
それをどう表現すればいいのか分からない。

 

言葉にしようとすると、
少し違う気がしてしまう。

 

そのもどかしさ。

 

けれど、
その感覚は、
決して曖昧なものではありません。

 

まだ言葉になっていないだけで、

 

確かにそこにあるものです。

 

設計の中では、
むしろそのような感覚が、
とても大切になることがあります。

 

「なんとなく落ち着く」

 

「少し居心地がいい」

 

そうした言葉の裏には、
具体的な理由が
隠れていることが多い。

 

光の加減かもしれない。

 

天井の高さかもしれない。

 

視線の抜け方や、
音の静けさかもしれない。

 

けれど、
最初からそれを
正確に言葉にする必要はありません。

 

むしろ、
無理に言語化しようとすると、

 

本来の感覚から
少し離れてしまうこともある。

 

大切なのは、
その感覚を否定しないこと。

 

「説明できないから、
 たいしたことではない」

 

そう扱わないこと。

 

うまく言えなくても、
そこに意味があると
信じてみる。

 

設計者は、
その断片を受け取りながら、

 

少しずつ輪郭を
探っていきます。

 

似ている事例を見たり、
空間のイメージを共有したり、

 

別の言葉に置き換えてみたり。

 

そうしたやり取りの中で、

 

曖昧だった感覚が、
少しずつ形になっていく。

 

一度で言い切らなくていい。

 

途中で言い直してもいい。

 

言葉が揺れてもいい。

 

その過程そのものが、
設計に深みを与えます。

 

はっきりした言葉だけで
つくられた空間は、

 

どこか説明的になることがあります。

 

一方で、
言葉になりきらない感覚を
含んだ空間は、

 

もう少しやわらかく、
長く寄り添うものになる。

 

うまく言葉にできない感覚は、

 

未完成なのではなく、

 

これから形になっていく途中。

 

その途中の状態を、
丁寧に扱うこと。

 

それが、
自分たちらしい暮らしに
近づいていくための、

 

静かな手がかりになるのだと
感じています。