新しい家に入るとき、人は何を感じるのか

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

完成したばかりの家に、
はじめて足を踏み入れたとき、

 

しばらく言葉が出てこないことがあります。

 

図面では何度も見てきたはずなのに、

 

実際の空間として立ち上がった瞬間、
少しだけ時間が止まったような感覚になる。

 

「広いですね」
「明るいですね」

 

そう言葉にすることもありますが、

 

その前に、
うまく説明できない感覚が先にある。

 

安心しているような、
少し緊張しているような。

 

懐かしいようで、
まだ慣れていない。

 

その両方が混ざった、
静かな感覚です。

 

これまで打ち合わせの中で、

 

何度も想像してきた暮らし。

 

どこに立って、
どこで過ごすのか。

 

そのひとつひとつが、
現実として目の前にある。

 

その実感が、
ゆっくりと体に入ってくる。

 

同時に、
まだ自分のものになりきっていない
距離感もあります。

 

空間は完成しているのに、

 

そこに暮らしが
まだ重なっていない状態。

 

だから、
どこか静かで、
少しだけ張りつめた空気がある。

 

この時間は、
とても短いものです。

 

家具が入り、
日常の動きが始まると、

 

空間は少しずつ
馴染んでいきます。

 

音が生まれ、
光の感じ方も変わり、

 

人の気配が
重なっていく。

 

そうして、
家は少しずつ
「場所」から「暮らし」へと
変わっていきます。

 

新しい家に入るときに感じるものは、

 

完成の喜びだけではなく、

 

これから始まる時間への、
静かな入り口のようなもの。

 

言葉にしきれないその感覚の中に、

 

これからの暮らしが、
ゆっくりと動き出しているのだと
思っています。