なぜ家族は同じ家に住んでいても、すれ違ってしまうのか。建築家が考える“前提条件”の設計論

ユーザー やまぐち建築設計室 山口 哲央 の写真

常識は、ひとつではありません。

自分にとっては当たり前のことでも、
相手にとっては当たり前ではない。

頭では分かっているつもりでも、
暮らしの中では、
この違いが思っている以上に
大きなすれ違いを生みます。

たとえば、家族との会話。

「それくらい言わなくても分かると思っていた」
「普通はこうするものだと思っていた」
「なぜ、そんな受け取り方をするのだろう」

夫婦の間でも、親子の間でも、
同居する家族の間でも、
このような小さな違和感は日常の中にあります。

そして、その違和感が積み重なると、
やがて会話は減り、
表情は硬くなり、
同じ家に住んでいるのに、
どこか心の距離を
感じるようになることがあります。

けれど、
その原因は必ずしも
「愛情がないから」ではありません。

多くの場合、すれ違いは、
価値観の違いそのものよりも、
その前にある「前提条件の違い」から
生まれているように思います。
同じ言葉を使っていても、
見えている景色は違う

私は建築家として、
これまで多くのご家族と
家づくりをご一緒してきました。

その中でよく感じるのは、
同じ言葉を使っていても、
人によって思い描いている景色が違うということです。

たとえば「明るい家にしたい」という言葉。

ある人にとっては、
南から光がたっぷり入る家かもしれません。

ある人にとっては、
白を基調とした
清潔感のある空間かもしれません。

また別の人にとっては、
家族の笑い声が自然に集まる、
気持ちの明るい家かもしれません。

同じ「明るい」という言葉でも、
求めているものは
必ずしも同じではありません。

「広いリビングが欲しい」という言葉もそうです。

面積としての広さを求めているのか。
視線が抜ける開放感を求めているのか。

家族がそれぞれ違うことをしていても、
同じ空間にいられる余白を求めているのか。

その意味は、
人によって変わります。

だから、家づくりでは、
要望をそのまま
形にするだけでは足りません。

その言葉の奥にある「なぜ」を
確認することが大切です。
家族のすれ違いは、
暮らしの前提から生まれる

家族の中でも、同じことが起こります。

たとえば、片付け。

ある人にとって、
テーブルの上に何もない状態が
「片付いている」状態かもしれません。

一方で、別の人にとっては、
必要な物がすぐ手に取れる場所にあることが
「使いやすい」状態かもしれません。

どちらが正しいという話ではありません。

ただ、見ている前提が違うのです。

家事の分担も同じです。
「手伝っている」という感覚の人と、
「一緒に暮らしているのだから、共に担うものだ」と
考える人では、
同じ行動でも受け取り方が変わります。

休日の過ごし方もそうです。
家族で出かけることを大切にしたい人。
家で静かに休むことを大切にしたい人。
予定をきちんと決めたい人。
その日の気分で動きたい人。

暮らしの中には、
こうした小さな前提の
違いがいくつもあります。

そして、
その違いを確認しないまま
「普通はこうでしょう」と話を進めると、
相手は責められているように
感じることがあります。
「なぜ分かってくれないのか」の前に
考えたいこと

人間関係で苦しくなるとき、
私たちはつい、
「なぜ分かってくれないのか」
と考えてしまいます。

でも、その前に、
「相手は何を前提に考えているのだろう」
と問い直してみることが
大切なのだと思います。

相手が冷たいのではなく、
疲れているだけかもしれません。

相手が無関心なのではなく、
どう言葉にすればよいか
分からないだけかもしれません。

相手が反対しているのではなく、
不安を感じているだけかもしれません。

表に出ている言葉や
態度だけを見て判断すると、
関係はこじれやすくなります。

大切なのは、
その奥にある事情や背景に
目を向けることです。

これは、家づくりでも同じです。

「収納が欲しい」と言う人は、
単に物をたくさんしまいたいのではなく、
毎日の片付けに追われる暮らしから
少し解放されたいのかもしれません。

「個室が欲しい」と言う人は、
家族と離れたいのではなく、
一人で心を整える時間が
必要なのかもしれません。

「広いLDKが欲しい」と言う人は、
豪華な空間が欲しいのではなく、
家族が自然に集まる
居場所を求めているのかもしれません。

言葉の表面だけでは、
本当の願いは見えません。
正しさを競うより、
前提を共有する

人と人が衝突するとき、
多くの場合、
そこにはそれぞれの正しさがあります。

家事を効率よく進めたい正しさ。

子どもの自主性を大切にしたい正しさ。

家計を守りたい正しさ。

家族の時間を大切にしたい正しさ。

どちらか一方だけが正しく、
もう一方が間違っているということは、
実はそれほど多くありません。

だからこそ、
正しさをぶつけ合うよりも、
前提を共有することが大切です。

「私はこう思っている」
「なぜなら、こういう経験があったから」
「本当は、こういうことが不安だった」
「こういう暮らし方を大切にしたい」

そうやって、
結論の前に背景を伝える。
それだけでも、
会話の質や内容は変わります。

暮らしの中のコミュニケーションは、
勝ち負けではありません。

どちらが正しいかを決めるためではなく、
どうすれば一緒に
穏やかに暮らしていけるかを
考えるためにあります。
住まいは、
家族の前提を映し出す

住まいは、
家族の価値観を映し出します。

玄関を広く取りたいのか。
リビングを家族の中心にしたいのか。
キッチンを見せる空間にしたいのか、
隠す空間にしたいのか。
洗濯動線を短くしたいのか。
収納を生活の近くに配置したいのか。
客間を設けるのか。
親世帯との距離をどう考えるのか。

こうした選択の一つひとつには、
家族の前提が表れます。

つまり間取りは、
単なる部屋の配置という
だけのものではありません。

その家族が、
何を大切にして暮らしたいのかを
形にしたものです。

だからこそ、
家づくりの初期段階では、
図面よりも先に「暮らしの前提」を
確認することが大切です。

朝は誰が一番早く起きるのか。
洗濯はいつ、どこで、誰がするのか。
子どもはどこで勉強するのか。
夫婦それぞれに一人になる時間は必要か。
来客は多いのか。
実家との関係はどうか。
将来、親との同居や介護の可能性はあるのか。

こうした日常の確認は、
一見地味です。

けれど、この地味な確認を飛ばしてしまうと、
完成後の暮らしに違和感が残ります。
暮らしやすい家は、
家族の会話と
暮らしの意味から生まれる

美しい家をつくることは大切です。
性能の高い家をつくることも大切です。

動線や収納、採光や通風、
素材やインテリアを整えることも大切です。

けれど、本当に暮らしやすい家は、
それだけでは生まれません。

家族が、自分たちの暮らしについて
丁寧に話し合うこと。
今の暮らしを見直す事。
何を大切にしたいのかを共有すること。

自分でも気づいていなかった
違和感や希望を言葉にしていくこと。

その過程があってはじめて、
住まいは「その家族らしい居場所」になっていきます。

設計とは、
単に建物を描くことではありません。
暮らしの意味と輪郭を整えることです。

そして、そのためには、
家族の中にある
前提条件を丁寧にほどいていく必要があります。
前提を確認する人は、
暮らしを大切にできる人

前提を確認するという行為は、
面倒に見えるかもしれません。

しかし、それは相手を
疑うことではありません。
むしろ、相手を大切にすることに繋がります。

「あなたはどう考えているのか」
「私はこう感じている」
「ここは同じで、ここは違うかもしれない」

そうやって確認することで、
相手の存在を丁寧に扱うことができます。

家族だから分かるはず。
夫婦だから伝わるはず。
親子だから理解してくれるはず。

その「はず」が、時に関係を難しくします。

近い関係ほど、
言葉にしなくなる。

近い関係ほど、
確認を省いてしまう。

けれど本当は、
近い関係ほど丁寧に
確認した方がいいのかもしれません。

暮らしは、
毎日の小さな積み重ねで変化します。

だからこそ、
小さな誤解を放置しないこと。
小さな違和感を見過ごさないこと。
小さな会話を大切にすること。
そういったひとつひとつの、
積み重ねが
家族の空気を少しずつ穏やかにしていきます。
家づくりの前に、
家族で話しておきたいこと

家を建てるとき、
多くの人は間取りやデザイン、
性能、予算から考え始めます。

もちろん、それらは大切です。

けれど、その前に一度、
家族で話していただきたいことがあります。

私たちは、
どんな暮らしを心地よいと感じるのか?
休日をどう過ごしたいのか。
家族で一緒にいる時間と、
一人で過ごす時間のバランスをどう考えるのか。
片付けや掃除をどのように続けたいのか。
人を招く暮らしを望むのか、
それとも家族だけで落ち着ける暮らしを望むのか。
十年後、二十年後に、
どんな家であってほしいのか。

こうした問いには、
すぐに最適解が出ないかもしれません。
でも、それを急がなくていいと思います。
大切なのは、考えるということを意識する事。
そして、家族の中で共有し始めることです。

家づくりは、
家族の未来を考える貴重な機会でもあります。

家族だけの話ではなくて
日々の暮らしで・・・常識は、
色々とあるから難しいものです。

自分にとっての当たり前が、
相手にとっても当たり前とは限りません。

だからこそ、
話が噛み合わないときほど、
結論を急がず、
前提条件を確認することが大切なのだと思います。

それは、仕事でも、人間関係でも、
家族との会話でも、
そして家づくりでも同じです。

「なぜ分かってくれないのか」ではなく、
「何を前提に考えているのだろう」と
立ち止まること。

その小さな確認が、
無駄な衝突を減らし、
互いを理解するきっかけになることがあります。

正しさを主張する前に、
前提を共有すること。

それは、
穏やかな人生を送るための知恵であり、
家族が心地よく暮らしていくための
大切な土台にもなります。

住まいというのは「暮らしそのもの」です。

けれど、その住まいという器の中で
本当に大切なのは、
そこに流れる時間であり、
言葉であり、家族の関係性です。

だからこそ、
家づくりを考えるときには、
間取りの前に、
まず暮らしの前提を見つめてみる。

その丁寧な確認から、
本当に帰りたくなる家は
生まれていくのだと思います。

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奈良県橿原市縄手町387-4(1階)
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