「一人になれる場所も欲しいんです。」

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

「一人になれる場所も欲しいんです。」

家づくりのお話をしていると、こんなご希望をいただくことがあります。

 

家族が自然に集まれるリビングが欲しい。

 

子どもの様子も感じられるようにしたい。

 

できれば、家族の気配がある家にしたい。

 

でも、その一方で、

「ずっと一緒にいるのは、少し疲れる気もして。」

とおっしゃる方もいらっしゃいます。

 

そんなとき私は、

「では、一人になれる個室をつくりましょう。」

とは、すぐにはお答えしないことが多いんです。

 

まず、

「どんなときに、一人になりたいと思いますか?」

と、お聞きしてみます。

 

仕事から帰ってきたあと、

少しだけ静かに過ごしたい。

 

休日に本を読みたい。

 

家族がテレビを見ている横で、

自分は別のことをしていたい。

 

誰とも話したくないわけではないけれど、

少しだけ距離を取りたい。

 

「一人になりたい」といっても、

求めている距離は人によって違います。

 

完全に扉を閉めたい人もいれば、

家族の声が少し聞こえるくらいが落ち着く人もいます。

 

つまり、

一人になることは、

必ずしも家族から離れることではないんですよね。

 

以前、ご相談いただいたご夫婦も、

「小さくてもいいので、一人になれる部屋が欲しいです。」

とおっしゃっていました。

 

そこで、

「そこで、どんなふうに過ごしたいですか?」

とお聞きしてみました。

 

仕事をするわけではない。

 

趣味の道具を置くわけでもない。

 

奥様は少し考えてから、

「夕食のあとに、本を読めたらいいですね。」

とおっしゃいました。

 

さらに、

「そのとき、家族の声は聞こえない方がいいですか?」

と伺うと、

「いえ、聞こえていてもいいんです。」

と。

 

むしろ、

リビングでご主人やお子さんが話している気配が、

少し聞こえるくらいがいいそうです。

 

そこで、

「それなら、完全な個室じゃなくてもいいのかもしれませんね。」

というお話になりました。

 

欲しかったのは、

家族から離れる部屋ではなく、

家族のそばで、自分に戻れる場所だったのかもしれません。

 

そう考えると、

一人になる場所にも、

いろいろなつくり方があります。

 

扉のある小さな個室。

 

リビングの端にある窓辺。

 

少し天井を低くした場所。

 

階段の途中にある小さな椅子。

 

寝室の一角。

 

庭を眺められるベンチ。

 

家族のいる場所から、

ほんの少し視線が外れるだけでも、

一人になったように感じることがあります。

 

反対に、

壁で囲まれた部屋をつくっても、

そこに居たいと思えなければ、

いつの間にか物置になってしまうこともあります。

 

家族のための家を考えていると、

「みんなが一緒にいられること」が、

よいことのように感じられることがあります。

 

もちろん、

一緒に過ごす時間は大切だと思います。

 

でも、

同じくらい、

それぞれが自分の時間を持てることも、

暮らしには必要なのかもしれません。

 

一度離れて、

またリビングへ戻ってくる。

 

少し静かに過ごしてから、

家族の会話に加わる。

 

そんな動きができる家もあります。

 

つながっていることと、離れられることは、反対ではないのかもしれません。

 

ですから、

「一人になれる場所も欲しいんです。」

と聞いたとき、

私はまず、

「どれくらい一人になりたいですか?」

と聞いてみます。

 

扉を閉めたいのか。

 

姿が見えなければいいのか。

 

家族の声は聞こえていてもいいのか。

 

ほんの十分だけ、

自分の時間が持てればいいのか。

 

そこが分かってくると、

必要なのは一部屋なのか、

小さな居場所なのかも変わってきます。

 

家族が心地よく暮らす家は、

いつも一緒にいるための家だけではないように思います。

 

近づきたいときには近づけて、少し離れたいときには離れられる。

その両方を選べることが、その家族にとって心地よい距離になることもあります。

 

私は、そんな一人の時間についてもお話を伺いながら、家族それぞれの居場所を一緒に考えていけたらと思っています。