「最後は、何を基準に決めればいいんでしょう。」

ユーザー ナイトウタカシ建築設計事務所 ナイトウタカシ の写真

「最後は、何を基準に決めればいいんでしょう。」

家づくりが進んでくると、こんなご質問をいただくことがあります。

 

間取りもいくつか考えた。

 

設備も比較した。

 

素材も見た。

 

予算についても話し合った。

 

それぞれに良いところがあって、

それぞれに気になるところもある。

 

調べれば調べるほど、

「結局、何を基準に選べばいいんだろう。」

と分からなくなってしまうことがあります。

 

そんなとき私は、

「これを基準にすれば間違いありません。」

という答えをお伝えすることは、あまりありません。

 

代わりに、

「そもそも、どんな暮らしがしたくて家づくりを始めたんでしたっけ?」

と、お聞きすることがあります。

 

家づくりには、

たくさんの「基準」があります。

 

性能。

 

価格。

 

広さ。

 

デザイン。

 

家事動線。

 

収納量。

 

メンテナンス。

 

将来性。

 

どれも大切です。

 

だからこそ、

全部を同じように大切にしようとすると、

決められなくなることがあります。

 

A案は動線がいい。

 

B案はリビングが広い。

 

C案は予算を抑えられる。

 

そうやって比べていると、

どれにも決め手がなくなってしまうんですよね。

 

そんなときに必要なのは、

比較項目を増やすことではなく、

自分たちは、何を大切にして家をつくろうとしていたのか。

そこへ一度戻ってみることなのかもしれません。

 

以前、ご相談いただいたご夫婦も、

二つの間取りで迷われていました。

 

一つは、

家事動線がとてもコンパクトな間取り。

 

もう一つは、

少し移動は増えるものの、

リビングから庭がよく見える間取りでした。

 

「どちらの方がいいと思いますか?」

と聞かれました。

 

そこで私は、

どちらかを選ぶ代わりに、

「最初に家のお話をしたとき、どんなことを楽しみにされていましたっけ?」

とお聞きしてみました。

 

すると奥様が、

「休日に庭を見ながら、みんなでゆっくり朝ごはんを食べたいって話しましたね。」

と。

 

ご主人も、

「ああ、それは最初から言っていましたね。」

とおっしゃいました。

 

もちろん、

それだけで間取りを決めたわけではありません。

 

家事動線も、

予算も、

性能も確認しました。

 

ただ、

迷ったときに戻れる場所が一つ見つかったことで、

お二人の中で、

何を比べればいいのかが少しはっきりしたようでした。

 

家づくりを始めた頃には、

意外とシンプルだった希望が、

打ち合わせを重ねるうちに見えにくくなることがあります。

 

最初は、

「家族でゆっくり過ごせる家にしたい。」

だったのに、

いつの間にか、

収納が何畳必要なのか。

 

キッチンはどのメーカーがいいのか。

 

窓はどの性能がいいのか。

 

そんな判断に囲まれていく。

 

もちろん、

一つひとつ決める必要はあります。

 

でも、

それらは家づくりの目的そのものではないこともあります。

 

私は、

家づくりの判断基準は、

最初からきれいな言葉になっていなくてもいいと思っています。

 

「休日の朝をゆっくり過ごしたい。」

 

「家では仕事のことを忘れたい。」

 

「家族が別々のことをしていても、なんとなく近くにいたい。」

 

「物に追われず暮らしたい。」

 

そんな言葉でもいいんです。

 

むしろ、

そのご家族の暮らしから出てきた言葉だからこそ、

迷ったときに役に立つことがあります。

 

ですから、

「最後は、何を基準に決めればいいんでしょう。」

と聞かれたとき、

私は、

誰にでも当てはまる正解を探すより、

迷ったときに、自分たちが戻ってこられる場所を一つ持っておく。

そんなことを一緒に考えてみたいと思っています。

 

何を選ぶか迷ったとき。

 

予算を調整するとき。

 

誰かの家を見て羨ましくなったとき。

 

SNSで新しいものを見つけたとき。

 

「私たちは、何を大切にしたかったんだっけ。」

と戻ってみる。

 

すると、

必要なものと、

そうでもないものが、

少し見えやすくなることがあります。

 

家づくりの判断基準は、

誰かから教えてもらうものではなく、

対話を重ねる中で、

そのご家族の暮らしから少しずつ見つかっていくものなのかもしれません。

 

正しい家を選ぶための基準ではなく、自分たちらしいところへ戻るための基準。

私は、たくさん迷う家づくりだからこそ、そんな「戻れる場所」を一緒に探していけたらと思っています。