「家に帰ったとき、ほっとする感じにしたい」
「家に帰ったとき、ほっとする感じにしたいんです。」
家の雰囲気についてお話ししていると、
こんなご希望をいただくことがあります。
仕事から帰ってきたとき。
買い物から戻ってきたとき。
一日外にいたあと、
玄関を開けた瞬間に、
「帰ってきたな」と思える家。
そんな家にしたい、と。
とてもよく分かるのですが、
「ほっとする感じ」というのは、
図面にはなかなか描けません。
そんなとき私は、
「では、落ち着いた内装にしましょう。」
とは、すぐには考えません。
まず、
「今のお住まいでは、家に帰って最初に何をしていますか?」
と、お聞きしてみます。
家に帰るというと、
玄関だけを考えがちです。
でも実際には、
道路から敷地へ入る。
車を停める。
玄関まで歩く。
鍵を開ける。
靴を脱ぐ。
荷物を置く。
上着を脱ぐ。
リビングへ向かう。
そして、
ようやくいつもの場所に座る。
「帰ってきた」と感じるのは、
玄関の扉を開けた瞬間とは限らないんですよね。
以前、ご相談いただいた方にも、
「帰ってきたときに、ほっとする家がいいです。」
とおっしゃる方がいました。
そこで、
「家に帰って、どの瞬間に一番ほっとしますか?」
とお聞きしてみました。
少し考えてから、
「ソファに座ったときですかね。」
と。
玄関ではありませんでした。
仕事から帰る。
バッグを置く。
上着を脱ぐ。
手を洗う。
飲み物を持って、
リビングのソファに座る。
そこでようやく、
一日が少し終わった感じがするそうです。
だとすれば、
考えたいのは、
玄関の雰囲気だけではありません。
玄関から、
そのソファまでどうたどり着くのか。
「帰宅」という時間は、玄関で終わるのではなく、自分の居場所へ戻るまで続いている。
そんなふうにも考えられます。
例えば、
玄関を開ける。
正面には、
家の中が全部見えるわけではない。
でも、
奥から少し明かりが見える。
家族の声が聞こえる。
靴を脱いで中へ入る。
途中で庭の木が少し見える。
荷物を置く場所がある。
上着を掛ける。
そして、
リビングへ入る。
いつもの椅子やソファがある。
そうやって、
外の時間から家の時間へ、
少しずつ移っていく。
その数十秒が、
「ほっとする感じ」をつくっていることもあります。
反対に、
帰ってきた瞬間から、
いろいろなことが目に入る家もあります。
玄関に荷物が積まれている。
リビングの散らかりが見える。
郵便物を置く場所がない。
バッグをどこへ置くか迷う。
上着を持ったまま家の奥へ行く。
すると、
家に帰ってきたのに、
まだ何かを片付け続けているような感じになることがあります。
これは、
玄関が広いか狭いかという話だけではありません。
帰ってきた自分を、家がどう受け止めてくれるのか。
そんな視点で考えてみると、
必要な場所も変わってきます。
「ほっとする」という感覚も、
人によって違います。
家族の顔がすぐ見えると、
ほっとする人。
少し静かな場所を通ってから、
リビングへ入りたい人。
庭の緑が見えると、
気持ちが切り替わる人。
照明のついたリビングが見えると、
安心する人。
誰もいない家でも、
いつもの椅子が見えるだけで落ち着く人もいます。
だから、
「ほっとする家」というデザインが、
一つあるわけではないんですよね。
そして、
帰宅する時間によっても、
家の感じ方は変わります。
昼間に帰ってくる。
夕方に帰ってくる。
夜遅く帰ってくる。
昼間なら、
窓から入る光や庭の緑が迎えてくれるかもしれません。
夜なら、
玄関の小さな灯りや、
家の奥から漏れてくる光の方が、
印象に残るかもしれません。
音もあります。
夕食をつくっている音。
テレビの音。
子どもの声。
あるいは、
誰もいない家の静けさ。
目に見えるものだけが、
「帰ってきた」という感覚をつくるわけではありません。
ですから、
「家に帰ったとき、ほっとする感じにしたいんです。」
と聞いたとき、
私は、
「家に帰って、どの瞬間に『帰ってきた』と感じますか?」
と、お聞きしてみたいと思っています。
玄関を開けた瞬間なのか。
靴を脱いだときなのか。
庭が見えたときなのか。
家族の声が聞こえたときなのか。
ソファに座ったときなのか。
そこが分かってくると、
玄関だけをきれいにつくるのとは、
少し違う家づくりが見えてきます。
玄関から、自分の居場所へ戻っていくまで。その短い時間も、家での暮らしの一部です。
私は、「ほっとする雰囲気」を形だけでつくるのではなく、そのご家族が外から帰ってきて、いつもの自分に戻るまでを一緒にたどりながら、その家らしい「おかえり」のあり方を考えていけたらと思っています。