「自分だけの場所が少し欲しいんです。」
「家の中に、自分だけの場所が少し欲しいんです。」
間取りのお話をしていると、
こんな言葉が出てくることがあります。
書斎が欲しい、
というほどではない。
一部屋必要なわけでもない。
でも、
家族とずっと同じ場所にいるのではなく、
少しだけ一人になれる場所が欲しい。
そんなお話です。
そんなとき私は、
「では、小さな書斎をつくりましょう。」
とは、すぐにはお答えしません。
まず、
「そこで、どんなふうに過ごしたいですか?」
と、お聞きしてみます。
「自分だけの場所」と聞くと、
個室を想像するかもしれません。
扉があって、
机があって、
一人になれる。
もちろん、
仕事や趣味に集中したいのであれば、
そういう場所が合うこともあります。
でも、
お話を聞いていくと、
必ずしも個室が欲しいわけではないことがあります。
本を少し読みたい。
コーヒーを飲みたい。
スマートフォンを眺めたい。
何もせずに、
少しぼんやりしたい。
家族の声は聞こえていてもいい。
ただ、
誰かと同じことをしなくてもいい場所が欲しい。
そんな希望だったりします。
以前、ご相談いただいた奥様も、
「小さくてもいいので、自分の場所が欲しいです。」
とおっしゃっていました。
そこで、
「扉のある部屋が欲しいですか?」
とお聞きすると、
少し考えて、
「そこまでではないんですよね。」
と。
さらに、
「どんなときに、そこへ行きたいですか?」
とお聞きしました。
夕食の片付けが終わったあと。
休日の午後。
家族がテレビを見ているとき。
少しだけ本を読んだり、
お茶を飲んだりしたいそうです。
そして、
「家族から完全に離れたいわけではないんです。」
とおっしゃいました。
そこで見えてきたのは、
部屋ではなく、
家族の近くにいながら、自分の時間に戻れる場所でした。
例えば、
リビングの少し外れ。
窓の近く。
階段の途中。
ダイニングの奥。
庭が見える小さな場所。
椅子が一脚置けるだけでも、
そこが自分の居場所になることがあります。
反対に、
きちんと書斎をつくっても、
日常の動線から離れすぎていると、
ほとんど使わなくなることもあります。
「自分の場所」は、
広さや部屋の名前だけでは決まらないんですよね。
そして、
自分だけの場所が欲しいという気持ちは、
家族から離れたい、
ということとも少し違うように思います。
家族と過ごす時間は好き。
一緒に食事をする。
話をする。
同じテレビを見る。
でも、
一日の中で、
ずっと誰かと同じ場所にいると、
少しだけ一人になりたくなることもあります。
それは、
特別なことではないと思います。
一人になることと、家族から離れることは、同じではないのかもしれません。
家族の気配が、
少し遠くに聞こえる。
声をかければ届く。
でも、
今は自分のことをしていていい。
そのくらいの距離が、
心地いい人もいます。
家づくりでは、
どうしても家全体を整えたくなります。
きれいなLDK。
整った家具。
統一されたインテリア。
無駄のない間取り。
それも、
もちろん大切です。
でも、
そこで暮らすのは、
「家族」という一つのまとまりだけではありません。
それぞれ、
違う人です。
好きなことも違う。
疲れる時間も違う。
静かにしたいタイミングも違う。
だから、
家族のための場所だけではなく、
一人の人として過ごせる場所が、
少しあってもいいのかもしれません。
それは、
家族全員に同じようにつくる必要もありません。
ご主人は、
ダイニングにいる方が落ち着く。
奥様は、
窓際の椅子が好き。
子どもは、
階段の途中に座っている。
それぞれが、
家の中で違う場所を見つけることもあります。
設計するときに、
すべての居場所を決め切るのではなく、
住む人が自分で見つけられる余地を残す。
そんな考え方もあると思います。
ですから、
「家の中に、自分だけの場所が少し欲しいんです。」
と聞いたとき、
私は、
「一人になったとき、何をしている時間が好きですか?」
と、お聞きしてみたいと思っています。
本を読む。
音楽を聴く。
仕事をする。
庭を見る。
コーヒーを飲む。
何もしない。
そして、
もう一つ。
「そのとき、家族の気配はどれくらい感じていたいですか?」
完全に離れたいのか。
声だけ聞こえていたいのか。
顔を上げれば見えるくらいがいいのか。
そこが分かると、
必要なのは一部屋ではなく、
ほんの小さな居場所かもしれません。
家全体がきれいに完成していることより、その中に「ここにいると落ち着く」と思える場所があること。
私は、その人だけの部屋をつくることから始めるのではなく、家の中でどんな距離なら心地よく一人になれるのか。そんなところから、その人の居場所を一緒に探していけたらと思っています。