「老後のことを考えると、やっぱり平屋の方がいいですか?」
「老後のことを考えると、やっぱり平屋の方がいいですか?」
家づくりのお話をしていると、
こんなご質問をいただくことがあります。
今は階段も、
それほど気にならない。
でも、
二十年後、三十年後を考えると、
上り下りが大変になるかもしれない。
それなら、
最初から平屋にしておいた方が安心なのではないか。
そんなふうに考える方も、
少なくありません。
そんなとき私は、
「老後を考えるなら平屋ですね。」
とは、すぐにはお答えしません。
まず、
「将来、どんなことができなくなるのが心配ですか?」
と、お聞きしてみます。
老後のことを考えるとき、
階段は分かりやすい心配の一つです。
足腰が弱くなる。
階段の上り下りが大変になる。
転倒が心配になる。
だから、
上下移動のない平屋の方が暮らしやすそう。
確かに、
そういう面はあります。
でも、
将来の暮らしやすさは、
階段があるかどうかだけで決まるものでもありません。
以前、ご相談いただいたご夫婦も、
「本当は二階建てもいいんですけど、老後を考えると平屋ですよね。」
とおっしゃっていました。
そこで、
「老後の暮らしで、何が一番気になりますか?」
とお聞きしました。
ご主人は、
階段でした。
奥様は少し違って、
「家の中をあちこち移動するのが大変になることですかね。」
と。
そこから、
将来の一日を少し想像してみました。
起きる。
顔を洗う。
着替える。
食事をする。
洗濯する。
お風呂に入る。
眠る。
すると、
気になっていたのは、
平屋か二階建てかという形よりも、
日常生活に必要なことが、無理なくできること
だと分かってきました。
例えば、
二階建てだったとしても、
一階に寝られる場所がある。
近くにトイレがある。
食事をする場所がある。
お風呂や洗面へ、
無理なく移動できる。
そうなっていれば、
将来、
二階を毎日使わなくても暮らせるかもしれません。
反対に、
平屋だからといって、
必ずしも将来暮らしやすいとは限りません。
家が横に長ければ、
移動距離が大きくなることもあります。
玄関に大きな段差がある。
廊下が狭い。
トイレや浴室が使いにくい。
そういう部分の方が、
あとから気になることもあります。
「平屋だから安心」ではなく、「暮らしが変わっても生活を続けられるか」。
私は、そちらを見てみたいと思っています。
そして、
もう一つ考えておきたいのが、
「老後」がいつから始まるのか、
ということです。
今、四十代なら、
これから二十年ほどは、
今に近い暮らしが続くかもしれません。
子どもと暮らす。
仕事をする。
家事をする。
趣味を楽しむ。
友人を招く。
庭へ出る。
その時間も、
家で過ごす大切な時間です。
遠い将来だけを考えて、
今の暮らし方を決めてしまうと、
少しもったいないこともあります。
例えば、
敷地の広さから考えると、
平屋にすることで、
庭がかなり小さくなる。
本当は、
子どもが遊べる庭が欲しかった。
リビングから緑を眺めたかった。
駐車場にも余裕が欲しい。
そんな場合もあります。
それでも、
将来のために平屋を優先するのか。
あるいは、
今は二階建ての良さを活かしながら、
将来一階を中心に暮らせるようにしておくのか。
答えは、
ご家族によって変わります。
将来への安心と、今の暮らしの心地よさ。そのどちらか一方だけを選ばなくてもいいことがあります。
老後への備えというと、
つい、
将来の身体に合わせた家を、
今から完成させておきたくなります。
でも、
将来どんな変化が起きるかを、
すべて予想することはできません。
足腰が弱くなるかもしれない。
家族構成が変わるかもしれない。
介助が必要になることもあるかもしれない。
逆に、
想像していたより長く、
今と同じように暮らしているかもしれません。
だから私は、
将来の状態を一つに決めて、
そこに家を合わせ切るより、
変化したときに対応できる余地を考えることがあります。
例えば、
一階に将来寝られそうな場所があるか。
建具や家具の変更で、
使い方を変えられそうか。
水まわりへの移動はどうか。
大きな段差をつくらずに済むか。
必要になったときに、
手すりなどを加えられそうか。
今すぐ、
すべてを老後仕様にするわけではない。
でも、
あとから変えるのが難しいところだけは、
少し先を見ておく。
そんな考え方もあると思います。
ですから、
「老後のことを考えると、やっぱり平屋の方がいいですか?」
と聞かれたとき、
私は、
「平屋にしたいのでしょうか。それとも、将来も安心して暮らせる家にしたいのでしょうか?」
と、お聞きしてみたいと思っています。
似ているようですが、
少し違います。
平屋は、
そのための一つの方法かもしれません。
でも、
二階建てでも、
暮らしの変化を受け止められる家は考えられます。
そして、
今だから楽しめる暮らしもあります。
老後のための家を今から完成させるのではなく、今を心地よく暮らしながら、将来の自分たちが暮らし方を変えられる家にしておく。
私は、平屋か二階建てかという形から答えを出すのではなく、今の暮らしと、その先に起こるかもしれない変化の両方をお聞きしながら、ご家族にとってどんな備え方が自然なのかを一緒に考えていけたらと思っています。