「結局、どんな家にしたらいいのか分からなくなってきました。」
「結局、どんな家にしたらいいのか分からなくなってきました。」
家づくりのお話をしていると、
こんな言葉が出てくることがあります。
最初は、
もっと単純だったはずなんです。
明るい家がいい。
広いリビングが欲しい。
収納もたくさん欲しい。
家事動線もよくしたい。
でも、
調べれば調べるほど、
いろいろな情報が入ってきます。
平屋がいい。
高気密高断熱がいい。
回遊動線が便利。
ファミリークローゼットは必要。
吹き抜けは開放的。
いや、吹き抜けは寒い。
窓は大きい方がいい。
いや、窓は少ない方がいい。
見ているうちに、
何が自分たちに必要なのか、
分からなくなってくる。
そんなとき私は、
新しい情報を加えることは、
あまりしません。
むしろ、
「家づくりを始めようと思ったとき、どんな暮らしを想像していましたか?」
と、お聞きしてみます。
以前、ご相談いただいたご夫婦も、
かなり迷っていました。
SNSには、
保存した住宅写真がたくさんある。
住宅会社からも、
いろいろな提案を受けている。
見学した家も、
何軒もありました。
でも、
打ち合わせを重ねるほど、
「これでいいのかな」
という気持ちが強くなっていました。
そこで、
間取りの話をいったんやめて、
「どうして家を建てようと思ったんですか?」
とお聞きしました。
少し考えて、
奥様が、
「今の家だと、休日もなんとなく落ち着かないんです。」
とおっしゃいました。
ご主人は、
「子どもが遊んでいる横で、コーヒーを飲んでいられるような家がいいと思っていました。」
と。
そこには、
回遊動線も、
吹き抜けも、
ファミリークローゼットも出てきませんでした。
出てきたのは、
家族で過ごす休日の風景でした。
家づくりをしていると、
いつの間にか、
「いい家」をつくろうとしてしまうことがあります。
広い。
明るい。
性能が高い。
家事が楽。
収納が多い。
デザインがきれい。
どれも、
悪いことではありません。
ただ、
一つずつ集めていけば、
自分たちに合う家になるとも限りません。
なぜなら、
他の人にとって便利なものが、
自分たちにも便利とは限らないからです。
他の人が心地いいと思う空間が、
自分たちにも心地いいとは限りません。
例えば、
大きなリビングが人気でも、
家族それぞれが少し離れて過ごす方が落ち着くかもしれません。
回遊動線が便利でも、
そもそも家の中をそれほど行き来しないご家族もいます。
大きな窓が気持ちよくても、
外からの視線が気になって、
ずっとカーテンを閉めてしまうかもしれません。
たくさん収納をつくっても、
ものをあまり持たない暮らしなら、
その面積を別のことに使えるかもしれません。
大切なのは、
それが一般的にいいかどうかではなく、
自分たちの暮らしの中で、本当に必要なのか。
そこなんですよね。
だから、
迷ったときには、
私は少し前へ戻ってみます。
朝、
誰が最初に起きるのか。
どこで朝食を食べるのか。
帰ってきたら、
最初に何をするのか。
夕食のあと、
家族はどこにいるのか。
休日は、
どんなふうに過ごしているのか。
家族と一緒にいたいのは、
どんなときなのか。
一人になりたいのは、
どんなときなのか。
そこには、
住宅の流行も、
人気ランキングもありません。
あるのは、
そのご家族の暮らしだけです。
家づくりを始めたばかりの頃には、
意外とそれが見えていたりします。
朝、
気持ちよく起きたい。
子どもと庭で遊びたい。
家族で夕食を食べたい。
夜は静かに過ごしたい。
休日には、
少しゆっくりしたい。
とても普通のことです。
でも、
家づくりが進むにつれて、
設備や性能、
間取りやデザインの話が増えていく。
すると、
最初に考えていたことが、
少しずつ見えなくなっていきます。
家について考えすぎて、暮らしのことが見えなくなる。
そんなこともあるのだと思います。
もちろん、
情報を集めることは大切です。
性能について知る。
設備を比較する。
間取りの事例を見る。
知らなかった選択肢を知る。
それによって、
よりよい判断ができることもあります。
でも、
情報は、
答えそのものではありません。
自分たちの暮らしと照らし合わせるための、
材料の一つです。
だから、
情報が増えて迷ったときほど、
さらに情報を探すのではなく、
いったん自分たちの生活へ戻ってみる。
そんな時間があってもいいと思います。
ですから、
「結局、どんな家にしたらいいのか分からなくなってきました。」
と聞いたとき、
私は、
「家のことを考える前は、どんな暮らしがしたいと思っていましたか?」
と、お聞きしてみたいと思っています。
どんな家がいいかは、
すぐに答えられなくてもいい。
でも、
朝をどう過ごしたいか。
帰ってきたとき、
どう感じたいか。
休日に、
家族とどんな距離でいたいか。
夜、
どんな場所で一日を終えたいか。
そんなことなら、
少しずつ話せるかもしれません。
そこから、
必要な部屋や広さ、
光や窓、
家具や設備を考えていく。
「いい家」を探すのではなく、自分たちが心地よく暮らしている姿へ戻ってみる。
家づくりで迷うことは、答えがなくなったということではなく、たくさんの「いい家」の中に、自分たちの暮らしが少し隠れてしまっただけなのかもしれません。
私は、そんなときこそ間取りから少し離れて、そのご家族がどんな一日を過ごしたいのか、もう一度ゆっくりお話を伺うところから始めたいと思っています。