「今さらこんなこと言ったら、迷惑ですよね?」
打ち合わせの途中で、
少し申し訳なさそうに、
こんなふうに言われることがあります。
すでに何度も打ち合わせをしている。
図面もかなりまとまってきた。
自分たちも、
一度は納得したはずだった。
それなのに、
あとから気になることが出てきた。
「こんなこと、もっと早く言えばよかったんですけど。」
そんな言葉が、
その前につくこともあります。
そんなとき私は、
「大丈夫ですよ。」
だけで終わらせるのではなく、
まず、
「どんなことが気になっていますか?」
と、お聞きします。
言いにくいことほど、理由がある
家づくりでは、
打ち合わせが進むほど、
言いにくくなることがあります。
最初なら、
まだ何も決まっていない。
だから、
思ったことを話しやすい。
でも、
一つずつ決まり始めると、
「もう変更しない方がいいかな。」
と思うようになります。
設計者にも、
施工する人にも、
手間をかけてしまうかもしれない。
費用も増えるかもしれない。
そんなことを考えて、
少し気になっていても、
言わずに進めてしまう。
でも私は、
言いにくいと感じていることほど、一度聞いてみたい
と思っています。
「窓を小さくしたいんです」
以前、
打ち合わせがかなり進んだところで、
奥様から、
「今さらなんですけど、リビングの窓をもう少し小さくすることってできますか?」
と聞かれたことがありました。
それまで、
大きな窓について何度も話をしていました。
庭が見える。
光が入る。
リビングが広く感じられる。
奥様も、
その話には納得されていました。
そこで、
「もちろん検討できます。ただ、どうして小さくしたくなったんでしょう?」
とお聞きしました。
すると、
少し間があって、
「夜になると、なんとなく落ち着かない気がして。」
と。
詳しくお聞きすると、
今のお住まいでも、
夜になるとカーテンを早めに閉めるそうです。
外から見られているわけではない。
それでも、
暗い外に向かって大きく開いている感じが、
あまり好きではない。
そこで初めて、
その方が求めていたのは、
単に明るく開放的なリビングではなく、
昼は外を感じたいけれど、夜は少し包まれていたい
ということが見えてきました。
その希望は、あとから生まれたとは限らない
こういうことは、
家づくりでは意外とあります。
急に希望が変わったように見えても、
本当は、
ずっとどこかにあった感覚かもしれません。
ただ、
最初は自分でも気づいていなかった。
図面が具体的になった。
窓の大きさが見えてきた。
実際にそこで暮らすことを想像できるようになった。
それで、
ようやく言葉になった。
そんなこともあります。
だから私は、
「今さら」という言葉を聞いたときほど、
何がそこまで言いにくかったのかも、
少し気になります。
すべてが変更できるわけではない
もちろん、
家づくりには工程があります。
確認申請が進んでいる。
材料を発注している。
すでに工事が始まっている。
変更によって、
追加費用が発生する。
場合によっては、
変更できないこともあります。
そこは、
きちんと確認しなければいけません。
だから、
何でもいつでも変えられます、
とは言えません。
でも、
変更できるかどうかと、
気になっていることを話していいかどうかは、別の話です。
まず話してみる。
そのうえで、
変更できるのか。
費用はどうなるのか。
別の方法はないのか。
それを一緒に考えればいいと思っています。
遠慮したまま完成してしまう方が気になる
設計者にとっては、
図面がきれいにまとまっていくことは、
もちろん大切です。
でも、
その図面の中で暮らすのは、
設計者ではありません。
完成してから、
毎日その窓を見る。
毎日そのキッチンを使う。
毎日その場所を通る。
それは、
そこに住むご家族です。
だから、
打ち合わせの流れを止めたくないからと、
気になっていることを飲み込んでしまう。
私は、
その方が気になります。
打ち合わせを予定通り進めることより、住む人が納得して進めること。
その順番は、
できるだけ忘れたくないと思っています。
「迷惑ですか?」の奥にあるもの
ですから、
「今さらこんなこと言ったら、迷惑ですよね?」
と聞かれたとき、
私はまず、
「迷惑かどうかより、何が気になっているのか聞かせてもらえますか?」
とお答えしたいと思っています。
もしかすると、
少し直せば解決することかもしれない。
変えなくても、
説明を聞けば納得できることかもしれない。
別の方法が見つかるかもしれない。
あるいは、
そこから、
それまで見えていなかった大切な希望が出てくるかもしれません。
家づくりでは、
きれいに説明できる希望ばかりが、
大切なわけではありません。
「なんとなく気になる。」
「今さらなんですけど。」
「うまく説明できないんですが。」
そんな言葉の奥に、
その人らしい暮らしのヒントが隠れていることがあります。
言いにくいことを言えることも、家づくりの大切な打ち合わせの一つ。
私は、遠慮して飲み込んでしまう前に、まず聞かせてもらう。その言葉の奥に何があるのかを一緒に探しながら、納得して次へ進める家づくりにしていけたらと思っています。