「理由はうまく説明できないんですけど、なんとなく違うんです。」
「理由はうまく説明できないんですけど、なんとなく違うんです。」
打ち合わせをしていると、
こんな言葉が出てくることがあります。
間取りに、
大きな問題があるわけではない。
要望も、
ちゃんと入っている。
広さも足りている。
動線も悪くない。
説明を聞けば、
なるほどと思う。
それなのに、
図面を見ていると、
どこか引っかかる。
「何が違うんですか?」
と聞かれても、
自分でも分からない。
そんなとき私は、
「理由がないなら、このままで大丈夫ですよ。」
とは言いません。
まず、
「どの辺りを見ているときに、そう感じますか?」
と、お聞きしてみます。
「なんとなく」は、まだ言葉になっていないだけかもしれない
家づくりでは、
理由を説明できることが、
大切に見えることがあります。
収納が足りない。
キッチンが狭い。
動線が長い。
窓が小さい。
こういうことなら、
話は分かりやすいですよね。
でも、
暮らしの心地よさは、
いつもそんなふうに説明できるとは限りません。
なんとなく落ち着かない。
なんとなく広すぎる。
なんとなくここにいたくない。
なんとなく違う。
それは、
理由がないのではなく、
まだ理由を言葉にできていない状態
なのかもしれません。
「広さは十分なんですけど……」
以前、
リビングの間取りをご覧になった方が、
しばらく図面を見たあと、
「広さは十分なんですけど、なんとなく違うんですよね。」
とおっしゃったことがありました。
面積は、
ご希望されていた広さがありました。
大きな窓もある。
ダイニングとのつながりもある。
最初にいただいた要望だけを見れば、
それほど問題はありません。
そこで、
「このリビングにいるとしたら、どこに座りそうですか?」
とお聞きしてみました。
図面を見ながら、
ソファの場所を指していただきました。
「そこに座ったら、どこを見ていたいですか?」
少し考えて、
「庭ですかね。」
ところが、
その間取りでは、
ソファから正面に見えるのはテレビで、
庭は横にありました。
すると、
「ああ、これかもしれません。」
とおっしゃいました。
その方が欲しかったのは、
単に広いリビングではなく、
座ったときに、自然と外へ視線が抜けるリビング
だったんです。
最初から、
そう説明できていたわけではありません。
図面を見たときに感じた小さな違和感を、
一緒にたどっていったことで、
少しずつ見えてきました。
設計者が答えを決めない
ただ、
「なんとなく違う」と言われたときに、
設計者がすぐ、
「それは窓の位置ですね。」
「きっと広さの問題ですね。」
と決めてしまうのも、
少し違うと思っています。
こちらが理由を先に決めると、
その答えに合わせて、
話が進んでしまうことがあるからです。
だから、
私は少しずつお聞きします。
「どの場所が気になりますか?」
「そこに立ったら、何が見えていそうですか?」
「今のお住まいで、似たように感じる場所はありますか?」
「反対に、落ち着く場所はどこですか?」
そんな話をしながら、
違和感の輪郭を探していきます。
違和感には、暮らし方が隠れていることがある
例えば、
大きなLDKなのに、
なんとなく落ち着かない。
話を聞いてみると、
家族から少し離れられる場所がない。
明るい家なのに、
なんとなく違う。
聞いてみると、
一日中明るい場所より、
少し影のある場所が好きだった。
家事動線は短いのに、
しっくりこない。
実は、
効率よりも、
家族と話しながら家事をしたかった。
そういうこともあります。
図面上の性能や便利さだけでは、
見つけにくいことです。
違和感の中に、その人が大切にしている感覚が隠れていることがあります。
理由が分からないままでも、話していい
家づくりの打ち合わせでは、
「ちゃんと理由を説明しないといけない」
と思わなくてもいいと思っています。
「なんとなく嫌なんです。」
「こっちの方が好きです。」
「説明できないけど、落ち着かないです。」
それでも構いません。
そこから一緒に考えるのが、
打ち合わせだと思うからです。
もちろん、
話してみても、
最後まで明確な理由が見つからないこともあります。
それでも、
一度立ち止まって考えたうえで、
「やっぱりこれでいこう」
となるなら、
最初とは少し違います。
自分たちで確かめて、
選んだことになるからです。
「なんとなく」を置き去りにしない
ですから、
「理由はうまく説明できないんですけど、なんとなく違うんです。」
と聞いたとき、
私は、
「うまく説明しなくて大丈夫です。どこを見たときにそう感じるのか、一緒に探してみましょう。」
と、お答えしたいと思っています。
家づくりには、
数字で説明できることがあります。
広さ。
距離。
性能。
費用。
でも、
数字だけでは説明できないこともあります。
落ち着く。
好き。
なんとなく嫌。
少し違う。
そういう感覚も、
毎日その家で暮らしていく人にとっては、
大切な判断材料です。
「なんとなく違う」を消すのではなく、その「なんとなく」がどこから来ているのかを一緒に見てみる。
私は、きれいに説明できる要望だけで家をつくるのではなく、まだ言葉になっていない小さな違和感にも耳を傾けながら、そのご家族自身が「これならしっくりくる」と思えるところまで、一緒に考えていけたらと思っています。