《住宅をつくる時に重要な2つの契約》その1

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●重要な2つの建築関連契約「設計・監理業務委託契約」と「工事請負契約」について 

設計・監理に携わる傍ら、(公社)日本建築家協会(JIA)の「建築相談室」、住宅の品質確保の促進等に関する法律 
(通称・住宅品確法)に基づき、全国の弁護士会に設置された「住宅紛争処理委員会」などにかかわってきました。 
その間90年代の中頃から増加した建築・住宅に関するトラブルは増え続けています。 
UR都市機構(旧住宅公団)が自ら販売した16棟を、解体し建て替えた東京八王子の欠陥高層マンションのニュ 
ース(読売新聞2005.04.01など)も記憶に新しいところです。 
戸建住宅に目を向けると、「住宅紛争処理」などADRの俎上に上がる事件の多くは、建築主に不利な契約をし 
たことが原因です。 
建築家が関与していれば当然の「設計・監理業務委託契約」を結ばず、「工事請負契約」だけで済ませている 
ケースがほとんどです。 
設計と監理に関する内容を約束していないのですから、いったんトラブルが起きれば、建築主側が不利になる 
のは当然です。 

建築士法には、第24条の7【重要事項の説明等】、同8【書面の交付】に、 
「建築士事務所の開設者は、設計又は工事監理の委託を受けることを内容とする契約(以下それぞれ「設計受託契 
約」又は「工事監理受託契約」という)を建築主と締結しようとするときは・・・」として、作成する設計図書の 
種類,工事と設計図書との照合など、おおざっぱですが規定しています。 
条文の「締結しようとするときは」を、注意深く読めば「締結しなくてもいいですよ」と言っているようなもの 
です。 
そしてこのことが、「設計・監理業務委託契約」を締結することなく「工事請負契約」だけで済ませ、建築を 
つくるうえで最も重要な「設計と監理」を曖昧にするために利用されているのです。 

とはいえ、不備な契約書を使って不利益をこうむるのは建築主ですから、信頼できる契約書をご紹介します。 

1)建築家(独立した建築士事務所)と結ぶ「設計・監理業務委託契約」とは 
*独立した建築士事務所とは:組織的にも、経営的にも施工者とは関係がないということです。 

◎【建築設計・監理業務委託契約書】 
建築家(建築設計事務所)に「設計・監理業務」を委託するには契約を結ばなければなりません。 
歴史のある一般的な書式は、1−1)に示します。 

1−1)四会連合協定「建築設計・監理等業務委託契約書」 
四会とは、 
(公社)日本建築士会連合会 http://www.kenchikushikai.or.jp/ 建築士の有資格者が個人で入会する組織(任意) 
(一社)日本建築士事務所協会連合会 http://www.njr.or.jp/ 建築士事務所単位で入会する組織(任意) 
(公社)日本建築家協会 JIA http://www.jia.or.jp/ 建築家が個人で入会する組織(任意) 
(社)建築業協会 BCS http://www.nikkenren.com/archives/kenchiku/home/ 建設会社が入会する組織(任意) 

この契約書【建築設計・監理等業務委託契約書】は一部ゼネコンでは使われることもあるようですが、 
ハウスメーカーでは使わないようです。契約書と約款の内容を見れば“縛り”が多いことがわかるでしょう。 
これを使って契約をすれば、極めて少ない設計図ですまし、工事監理者の存在をあいまいにして実態は現場の 
監督に業務をさせるような違法スレスレの行為が不可能になるからと推察されます。 

ただ、この契約書は大建築も対象にしているため、住宅や小規模建築には使い難いので、上記のひとつ(公社) 
日本建築家協会(JIA)が策定した次の1−2)がお薦めです。 

1−2) JIA版「建築設計・監理業務委託契約書」 
この書式は、建築主に密接な立場にいる建築家の団体がつくったものですから安心して使えます。 

記載される内容は: 
委託者(建築主)、受託者(建築家)、件名のほか 
1.建設地、2.用途、3.業務内容、4.業務の実施期間(基本設計業務、実施設計業務、監理業務別)、5.業務報酬額、 
6.支払いの時期(委託契約成立時、基本設計完了時、実施設計完了時、上棟時ほか、業務完了時)、7.特記事項、 
契約日、委託者と受託者の住所氏名印。 
このあとに「約款」と「業務項目リスト」が付く全4頁のものです。 

「約款」は: 
第1条【基本の考え方】、第2条【委託者の責任】、第3条【受託者の責任】、第4条【計画の変更】、 
第5条【業務期間と報酬の変更】、第6条【業務の中止と契約の解除】、第7条【業務の完了】、 
第8条【瑕疵の取扱】、第9条【業務の再委託】、第10条【秘密の保持】、第11条【著作権】、 
第12条【著作物の利用】、第13条【保険】、第14条【契約外の事項】、第15条【紛争の解決】です。 

「業務項目リスト」は: 
1.標準業務  
(1)基本設計業務 -1)建築主からの情報収集 -2)設計条件や方針の設定 -3)条件の分析と比較検討 
 -4)計画の総合化 -5)基本設計図の作成(01配置図 02平面図 03立面図 04断面図 05仕上表) 
 -6)基本設計内容の建築主への説明 -7)その他 
(2)実施設計業務 -1)建築主からの情報収集 -2)条件の分析と比較検討 -3)設計条件や方針の決定  
 -4)設計の総合化 -5)構造計画・設備計画・外構計画の統括 
 -6)実施設計図の作成(01仕様書 02仕上表 03案内図 04配置図 05平面図 06立面図 07断面図  
 08矩形図 09展開図 10建具表 11各伏図 12)詳細図 
 -7)実施設計内容の建築主への説明 -8)その他 
(3)監理業務 -1)施工者選定についての助言 -2)工事見積書作成事務への協力 -3)工事見積書内容の検討 
 -4)工事請負契約への助言 -5)設計意図を施工者に伝える業務 -6)施工図などの検討と承認  
 -7)工事と設計図書の照合(具体的内容は「2別記」に明記) -8)施工者に対する竣工図作成の指導及び確認 
 -9)その他 

2.別記 
「1-(3)監理業務」の「-7 工事と設計図書の照合」とは下記のことをいい、確認は目視や施工者から提出 
される写真や品質管理記録書などにより、工事内容に応じた方法で行います。 
(1)着工時の確認事項 -1)敷地形状、境界、方位の確認 -2)地縄、遣方の確認 
(2)基礎配筋・基礎完了時の確認事項 -1)地業、形状、寸法、配置の確認 -2)基礎形状、寸法、配置の確認 
 -3)配筋の確認 -4)型枠の確認 -5)アンカーボルトの位置、本数の確認 -6)コンクリートの品質の確認 
 -7)床下換気口またはこれに代わるものの確認 
(3)構造躯体完了時の確認事項 
1.木造の場合 -1)防腐、防蟻処理の確認 -2)アンカーボルトの確認 -3)構造材の接合部の確認 
 -4)接合金物の確認 -5)耐力壁の位置、長さ、規格の確認 -6)建築物の高さなど法規規制上の確認 
 -7)軸組材の品質、樹種、形状、寸法の確認  
2.鉄筋コンクリートの場合(略) 
3.鉄骨造の場合(略) 
4.仕上前の下地の確認事項 -1)軒裏、外壁の防火上の措置の確認 -2)躯体内結露防止対策の確認 
 -3)屋根下地材料、形状の確認 -4)防水下地、防水工事、シーリングの確認 
5.設備の確認事項 -1)換気設備、スイッチ、コンセント、照明器具、分電盤などの位置、規格、箇所数の確認 
 -2)給水、給湯、排水の位置、規格、箇所数の確認 -3)ガス栓の位置、規格、箇所数の確認 
 -4)その他設備機器の位置、規格、箇所数の確認 
6.竣工時の確認事項 -1)建具および家具の作動確認 -2)設備機器の作動確認 -3)内外装仕上の不具合工事 
 有無の確認 -4)外構工事の確認 -5)外壁後退、斜線制限、手すりの高さなど法規制との照合  7.その他 

3.標準外業務 1)敷地測量への協力 2)地盤調査への協力 3)権利関係調査への協力 4)解体工事への協力 
5)建築確認およびその他法令による申請代理および立会い代理(以下略)〜21) 
となっています。 

*この内容をみればわかるとおり、この契約書を使って建築家と契約するなら、「第三者機関」と称する 
「検査会社」に工事中の検査を依頼する必要は全くありません。 
「設計契約なしに」ハウスメーカーに頼む場合なら、意味があるかもしれませんが、そもそも極めて少ない 
設計図書では、「工事と設計図書の照合」をすることなど到底不可能です。 

*ハウスメーカーは無料の営業設計をします。不成約になってもその費用を成約した住宅の工事費用に 
乗せするからできることです。 
しかし、建築家は工事では利益を得ません。もちろん施工者からキックバックをとるなど言語道断です。 
設計・監理というノウハウへの対価としての設計・監理報酬(のみ)を依頼主からいただきます。 
それは依頼主の代理人の立場に立つからです。 
そのため、多くの建築家は依頼されないうちは設計にとりかかり(れ)ません 
「設計を依頼します」「お引き受けします」という業務委託書が交わされてから、調査などを始めます。 
設計を依頼されたのち、予定規模、予定工事費、予定工期、設計・監理報酬などを両者で相談しながら決めて、 
「設計・監理業務委託契約書」を取り交わすことになります。 

*設計監理報酬(いわゆる設計料)は、国土交通省告示第15号(建築士法第25条の規定に基づき、建築士事務所 
の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準)が示されています。 
これは建築物の類型(専用住宅、共同住宅、事務所など)、等の分類と床面積の合計から、設計及び工事監理に 
必要な「人・時間(マンパワー)」の目安を表に表したものです。 
その数値に人件費を乗じ、技術料や事務所経費を加えた合計が設計監理報酬になります。 
「人・時間」の数値は、一級建築士として2年または二級建築士として7年の建築に関する業務経験を有する 
者による業務時間を示しています。算出結果は設計事務所ごとに異なります。この積み上げで算出された 
金額を逆算したものを、便宜上「設計料は予定工事費の○○%」といっているのです。(江口 征男) 

次は、2)施工者(工務店やハウスメーカー)と結ぶ「工事請負契約」とは、を書きます。