《建築士、建築家、設計者 どう違うのか》
誤って使われることも多い、契約する前に理解しておくべき重要な用語の解説です。
◎建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)とは:
「弁護士」などは、職能としての意味と資格としての意味がありますが、「建築士」は国土交通省所管の国家資格を表すものです。
一級、二級、木造建築士があり、それぞれに設計・監理の業務を行える守備範囲が定められています。
一級建築士の場合、建築系の大学(学科)を卒業した場合、2年の実務経験を経て受験資格が得られます(工業高校や専修学校のルートも
あります)。
学科試験(計画、法規、構造、施工)に合格すると、実技試験(設計・製図)を受けることができます。
試験の目的は、「建築設計の専門家」ではなく、建築技術分野全体を対象にしているので、「建築技術全般にわたる基本知識」を
テストします。
例えば、「計画」では西洋や日本の建築史から設計の作法、環境など、「施工」では建築現場の技術なども問われます。
しかし、試験で才能(創造性)など美的な能力は量れませんから、デザインや美的センスが低くても受かります。
2012年までの5年間平均の総合合格率は10.7%でした。
●一級建築士所得者の累計番号は約35万!
一級建築士の資格保有者は建築士法が制定された1950年からの「累計」で2013年現在、約35万人もいます。
昔は、建築士は年に1回所属などを国に報告する義務(年次届)がありましたが、建設省(現国土交通省)が40年ほど前から、
実態の把握を止めました。いま生存している人は28万人程度と推定されます。
設計・監理専業の建築士事務所(組織的、経営的に独立した一級建築士事務所)に勤務する建築士と、
設計・施工兼業建築士事務所(社内一級建築士事務所)の建築士をあわせても、設計に従事している人の総数は
6万人程度と思われます。
大多数の一級建築士は建設現場の技術者や行政、確認検査機関など広い分野でそれぞれの専門家として働いています。
◎設計者、工事監理者、工事施工者とは:
【建築基準法第2条(用語の定義)】
●設計者:その者の責任において、設計図書を作成した者をいう(以下略)。
建築関係法に責任を持つ立場として、建築確認申請書などに「設計者」の欄が設けられています。
●工事監理者:建築士法第2条第7項に規定する工事監理をする者をいう。
(工事)監理の際に、施工者が設計図と異なる施工をしている場合には、是正するよう指示し、
施工者がそれに従わないときはその旨建築主に報告するよう法で決められています。
これは、社内建築士事務所の監理者でも同じなのですが、同じ企業の中の施工部門に対し、厳しく指示することが
できるでしょうか。
そのため、「工事監理者」は名前だけで、実際には現場の担当者にまかせきりにしている例が多いのです。
設計・監理部門と施工部門が同一組織のなかで行われる場合には、「利益の相反」は避けて通れないことなのです。
*利益の相反とは:
【設計・監理】決められた予算の中で、“発注者のために”よりよい設計(監理)をするもの。
つまり価値を追求する仕事です。
【施工】建築主のためとはいえ同時に“施工者の利益”を追求しなければならないもの。
この二つが同じ組織の中で機能するには無理(矛盾)があることを指しています。
なお、読み方は同じ「カンリ」でも、「(現場)管理」と「(工事)監理」は内容が違います。
前者は、施工者の現場責任者が行う工程の管理や現場の職員や職人の手配や、協力会社を監督するもので
後者は、工事監理者(設計者が兼ねることが多い)が定期的に現場に赴いて、設計図書と施工状況を確認するものです。
関係者でも間違いやすいので、「カンリ」はそれぞれ「クダカン」と「サラカン」と呼んでいます。
●工事施工者:建築物、その敷地若しくは第88条第1項から第3項までに規定する工作物に関する工事の
請負人又は請負契約によらないで自らこれらの工事をする者をいう。
◎関係団体:
それぞれ加入義務はありません。
建築士事務所の団体(組織加入):(一社)日本建築士事務所協会連合会 http://www.njr.or.jp/
傘下に47都道府県建築士事務所協会があります。
建築士の団体(個人加入):(公社)日本建築士会連合会 http://www.kenchikushikai.or.jp/touroku/meibo/index.html
傘下に47都道府県建築士会があります。
建築家の団体(個人加入):(公社)日本建築家協会(JIA) http://www.jia.or.jp/
◎建築家:
基本的には一級建築士の資格を持ち(有名建築家には持っていない人もいますが)、建設会社や建材メーカーなどに
所属あるいは従属せず(組織的経済的に独立している)設計・監理を行っている設計者をいいます。
“従属していないこと”は建築主の代理人としての業務を進める上で極めて重要です。
「建築家」が資格ではない以上、ある人が「建築家」であるかは、本人の主張よりも建築主(依頼者)がその人の
職務経歴、作品歴などを見てご自分で判断するしかありません。
きっかけとして、金融機関や不動産会社や工務店や親しい友人などから紹介された場合でもご本人の自己責任で
決めなければなりません。鵜呑みは禁物です。
◎「西欧の建築家」と「わが国の建築士」とは違う
前述の理由から、西欧の建築家(アーキテクト)資格とわが国の建築士資格とは大きく異なっています。
日本の建築士資格は「設計者の資格」ではなく、「建築技術者」としての最低基準を示すものだからです。
建築関係のどの分野に進むにも、資格取得後の研鑽が必要です。
誰でも「一級建築士」を取ったばかりは自信が持てないはずです。25歳で取得したとして30〜35歳でようやく
一人前というところでしょう。
ただ、こと「デザイン」に関しては年齢や経験に関係なく才能豊かな人がいることもたしかです。
次に示す資格は、発注者が「建築家(設計できる建築士)」と「設計しない(できない)建築士」とを見分けるのに有効です。
◎建築士の上位資格「専攻建築士制度」と「登録建築家制度」:
2003年から、(公社)日本建築士会連合会と(公社)日本建築家協会が、一級建築士(国家資格)の上位資格として
それぞれ設けた資格です。「専攻建築士」は、「統括設計専攻建築士」をはじめ8つの分野に分かれています。
日本建築士会連合会の「統括設計専攻建築士」と、日本建築家協会の「登録建築家」は、ともに設計・監理を行う資格です。
前者は建築士の有資格者団体で会員は多くの職種についているので全部で8種の「専攻建築士」を設け、
その中で「設計・監理」に携わっている人を「統括設計専攻建築士」として認定しています。
消費者が「建築家(設計できる建築士)」と「設計しない(できない)建築士」を見分けるのに有効ですが、
設計者の能力(レベル)はご自身で確かめるしかありません。
後者は建築家の団体がつくった資格なので、「登録建築家」だけです。
それぞれ、建築士の資格取得後の実務経験年数や、業務実績などを審査するほか、
CPD(継続職能研修 continuing professional development)の継続的な単位取得を条件にしています。
当初は、それぞれの団体の会員だけの資格でしたが、最近会員外へもオープン化されました。
この2つの資格は、初めからいずれは統一する方向で来ましたが、いまだにまとまらずにいます。(江口 征男)