回遊できる間取り
住まいの間取りは、敷地の条件や家族構成によって異なるものになるのは当然の事、それ以上に住む人の生活スタイルや暮らしに対する考え方等によっても異なるものとなり、本来はひとつとして同じ間取りはあり得ないはずのものです。
とはいっても、住みやすい家に概ね共通する間取りの手法はあるように思っています。
そのひとつが「ひとまわりできる家(一巡できる家)」です。
各種の条件により必ず実現できる手法ではありませんが、私が手がける住宅においては、できるだけ家の中を回遊、一巡できる動線を設けた「ひとまわりできる家」を提案しています。
「ひとまわり」といっても部屋の廻りに廊下を回すいわゆる回廊式というものではなく、むしろ廊下をなくして、その分のスペースを部屋に利用して、それを経由するものです。
また、単純に回ることができるということでなく、家の中に「表動線」と「裏動線」を確保することに最も大きな意味・メリットがあるものです。
例えば、玄関から居間に至る経路を「表動線」とします。
これに対し、玄関からウォークインクロゼットを通り、寝室やキッチン、脱衣・洗濯室等
の水廻りを経由して居間に至るといった別の経路を「裏動線」として設けたとします。
このようにすれば、
・来客時にも、裏動線を使って入浴や洗濯、洗濯物の取込みや着替え等が、来客に気兼ね をすることなく行える。
・玄関脇に衣類用のクロゼットがあると外出前にも帰宅時にも便利なものですが、更にこ のクロゼットと寝室やリビング等がつながることにより、就寝前後の着替えやその用意、 入浴等、一連の動きが非常に効率的になる。
・子供や家族が増えたり、子供が成長した時等の動線の混乱を解消する。
といった、住まいにとって非常に機能的で融通性の高い間取りが可能になります。
「ひとまわりできる家」は、上記のような様々な利用形態、家族構成の変化等に対応するためのプランづくりとして、非常に有効な手段のひとつです。
「ひとまわりするプラン」といっても、その内容はさまざまです。
・リビングやダイニングの廻りを回遊するもの
・階段室の廻りの諸室を回遊するもの
・キッチンや水回りと、その他の諸室を回遊するもの
・玄関廻りを回遊するもの、等
下のプランはこれまで手がけた「ひとまわりできる家(回遊型プラン)」の実例です。
<主要な諸室全体をつなぐプラン>
杉並の家
1階はリビングダイニングを中心として、その周囲に配したキッチン~水廻り諸室~たたみの間~玄関~階段室~キッチンがつながるようにした動線、プランの家です。
この家の2階は、上記リビングダイニングに自然光を採り入れる為の吹抜を中心に、階段室~書斎兼趣味室~主寝室~ウォークスルークロゼット~階段室というようにつながります。
用事の内容により回る方向を変えることで、非常に便利に使えるだけでなく、年配の建て主さんにとっては移動距離が短くて用事を済ますことができると好評の住まいです。
田端の家(2階の子世帯の住まい)
階段を中心にして、リビングダイニング~キッチン~水廻り~クロゼット~主寝室~趣味室~子供室~トイレ~リビングダイニングと住まいの全ての部屋がつながるプランです。
帰宅後すぐにクロゼットへ寄って上着を置いてから手洗い後にリビングへ、キッチンからその脇の洗濯室に行ってクロゼットへ片づける...等。
さまざまなシーンにおいて各室が合理的につながるようにした家です。
また、家の中心である階段室はトップライトにより明るい場所として、この階段室越しに各室の気配を感じることができるのも特徴の住まいです。
関町の家Ⅱ
上記田端の家と同様、階段室を中心に各室をつないだプランです。
リビングダイニング~書斎~寝室~水廻り~玄関~リビングダイニングという形でつなげた家です。
<小さなひとまわりを複数設けたプラン>
阿佐ヶ谷の家
玄関~リビングダイニング~キッチン~玄関という動線と、リビングダイニング~水廻り~キッチン~リビングダイニングという動線を組み合わせるようにしたプランです。
富士見台の家
家の玄関廻り(パブリックゾーン)にひとまわり動線、家の奥(プライベートゾーン)にひとまわり動線をそれぞれ設けた家です。
前者は、玄関~リビングダイニング~客間(茶室)~玄関という動線。
後者はリビングダイニング~主寝室~洗面脱衣室とトイレ~キッチン~リビングダイニングという動線としたプランです。
キッチンと水廻りは連続させると家事動線として非常に便利なことが多いものですが、この延長戦上に寝室を設けることで、夜間や病気等で寝込んだ際に便利なだけでなく、リビング等に顔を出さずに水廻りの利用が可能になるといった面でも使い勝手が良いものです。
ひとまわりできる家の中から特徴的なものをご紹介させて頂きましたが、これらの動線計画はもちろん全ての家で採用できる訳ではありません。
非常に間口が狭い敷地であったり、細長い家等ではなかなか実現が難しいものではありますが、私が手がける住宅では機能的で合理的なプラン・住まいとするため、その設計手法のひとつとしているものです。