木の家について
自然素材を活かした木の家
これから家を建てようとする人にとって、木の家という言葉からどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。合掌造りのような茅葺の民家をイメージする人もいれば、お茶室がある数寄屋造りの住宅や、住宅展示場のモデルハウス群が木の家と思っている人もいるかもしれません。
木の家という言葉からたくさんのイメージが連想されるのも、その長い歴史が今日まで続きながら、様々に変化してきていることによると思われます。
日本の木の家は伝統的神社仏閣の技術を吸収し、農家民家や商業町家として江戸時代末期にはほぼ完成した形となりました。その後、明治以降の洋風建築の影響を受け、現代の様々な工法、設備を組み込み、メーカー住宅の台頭、生活様式の多様化と共に、今でも脈々と生き続けています。
その中でも、今回テーマとする木の家は、日本の伝統的な柱や梁の構造を持ち、主に無垢の木組みによる木造軸組工法でつくられ、自然素材を活用した住宅として考えてみようと思います。
健康的な、安らぎのある木の家
一昔前と違って現在の住宅建築は欠陥住宅問題も少なくなり、品質管理も向上し、設計、施工を何処に依頼しようとも、大きな問題が無いように法的な整備もされてきました。
他の工法に比べて、なぜ木の家が良いのかを具体的に、数値的に挙げることが難しいというのが正直なところです。
それでもあえて自然素材の木の家の良さと言えば、それは住めば住むほどに身体にに浸み込んでいく、生理的、心理的に安らぐことのできる快適性、健康性ではないでしょうか。
肌寒い季節に家に帰ってくると、温かく柔らかい空気が迎えてくれる・・、蒸し暑い季節にエアコンを使わなくても、じめじめする感じがしない・・、のんびりと家の中にいるだけで目が安らぎ、心身ともに寛げる・・そうした心地よさを理屈ではなく、身体で感じることができるのが自然素材の木の家の良さです。
木の香りが住んでいる人には慣れて感じられなくなるのと同じように、木の家の心地よさは空気のように、住む人の心身と一つになっていきます。
快適で、健康的な、安らぎのある木の家のポイント
しかし、木造軸組工法により、自然素材を使ってつくれば、それだけで快適な木の家になる訳ではありません。設計から施工にわたって、様々な工夫が大切です。
1)開放的で、フレキシブルな間取り、空間づくり
日本の気候風土は、夏は高温多湿、冬は寒冷乾燥で、夏冬の温度差が大きく、特に夏の蒸し暑さは年々厳しさを増しています。そんな夏をなるべく設備に頼らずに快適に過ごすためには、家の中を壁で仕切らずに、通風性が得られるような開放的な間取り、空間とすることが重要です。
日本の木の家は柱を建てながらつくる工法です。その柱の間を壁や建具で自由に区切って間取りをつくるという特徴を活かして、夏は開放的にして、冬は適宜閉じることで、1年を通じてフレキシブルに生活することが、心地よさに繋がります。
また、吹き抜けや屋根裏を利用して木組みを上手く設計することで、光と風を取り入れた開放的な空間をつくることも容易です。木の家を四季、一日を通じて上手に使いこなす感覚で、窓や建具に細かい設計の工夫を凝らすと、木の家が家族の一員のように住まい手と一つになり、心地よく暮らすことが出来ます。
そのような木の家のプランニングの自由度の高さは、将来のリフォーム、設備の更新などにおいても同じように発揮されます。家族や生活様式の変化に対応して、間取りの変更や設備の更新などもしやすい工法です。
↑吹き抜けを介して、欄間や障子で通風、採光
2)自然素材で包み込むようなインテリア
家の中の床、壁、天井のインテリアは、住む人にとって「第三の皮膚」とも言われます。人間の五感に関わる重要な要素です。木の家のインテリアをなるべく呼吸する自然素材でつくることで、人間の生理作用と調和した、快適な暮らしを送ることが出来ます。
床は、無垢の木のフローリングに自然塗料を塗装することで汚れから守り、湿気を吸ったり吐いたりして湿度調整を行い、木肌の触感が微妙な刺激を肌に、そして脳に伝えます。畳は更に、香りや爽やかな肌触りがなんとも言えません。
壁や天井は、漆喰や珪藻土などの左官材、ロール和紙、手漉き和紙などの表具材、そして木によって、様々な表情も見せてくれます。
インテリアに使われる自然素材には、一つとして同じものは無く、特に木は光を吸収し目に優しく、ゆらぎのある自然の木目は脳にもリラックス効果があります。湿気を夏は吸収し冬は放出し、自然の厳しさを和らげてくれます。
自然素材の特長を活かして美しくデザインすることで、自然素材に包まれた安心感、心地よさを感じながら、心身ともにリラックスして暮らすことが可能です。
↑光と風を感じる自然素材に包まれたインテリア
3)許容応力度構造計算による災害に強い、安心な構造
大きな地震災害のたびに木の家の倒壊が報道されますが、それらの原因は老朽化による耐震性の低下や、構造計算ではなく経験則に基づく間取り優先の構造によるものが見受けられました。
そうした災害事例を踏まえて耐震性確保の技術が検討され、現在では柱や梁の構造接合部や基礎との接合部の補強方法が定められ、耐震性が向上してきました。また、地震や風力に対して抵抗する耐力壁の数量を、建築基準法で求められる最小限の数量に対して1.25~1.5倍以上設けることが推奨されるなど、細部から全体にかけて耐震性の向上が図られてきました。
それらの構造性能の確認のほとんどは簡略計算で行われていますが、更に一歩進んで詳細な構造計算である許容応力度構造計算による構造設計が望ましいです。基礎形状や鉄筋数量、土台、柱、梁などの構造材1本、1本の適正な大きさを詳細に計算し、耐力壁の数量や配置を含めて総合的にコンピューターで構造計算する方法です。許容応力度構造計算による構造安全証明によって、安心して住み続けることが出来ます。
↑許容応力度構造計算書と設計図書
4)家全体を包むような断熱と日射遮熱で快適な温熱環境
木の家は通風性が良いが、隙間風で冬は寒いといったイメージは過去のものになりました。
工務店業界では高断熱高気密が良いとされ、断熱性能や気密性能の数値競争になっている側面もあり、本来の快適な暮らしが見落とされている面もあります。
単に数値性能だけを高くするのであれば、窓を小さくし、外に出られる掃き出しサッシを使わずに腰の高さのサッシに変更すれば可能ですが、自然環境と一体となった日本の暮らしの良さは失われます。
木の家の構造材である木材は鉄骨やコンクリートよりも断熱性能が高く、断熱材と一体化することで断熱しやすいという特徴を活かして、家全体の暮らしの設計と合わせて断熱と日射遮蔽をどのように確保するかをシミュレーションする省エネ計算ソフトも充実してきました。
自分らしい暮らしの確認と、プランニング、断熱・遮熱の計算をシミュレーションしながら、心地よさの最適化を図ることが重要です。
↑省エネ計算ソフトによる省エネ計算結果
また、断熱工法においても、以前は外断熱が良いとか、充填断熱が良いとかという断熱工法論争がありましたが、今ではそれぞれの良さを活かして、建てる地域に求められる断熱性能を得るために組み合わせるなど、コストや施工性、デザインなどに対応して、柔軟に断熱設計を行うことが求められるようになりました。
断熱材もグラスウールなどの鉱物系繊維断熱材やスタイロフォームなどの硬質樹脂系断熱材のほかに、木材を原料にした木質繊維系断熱材も開発され、木の家となじみやすい呼吸する断熱材によって、断熱性能だけでなく調湿性能による耐久性の確保も可能になりました。
伝統的な庇や外付けロールスクリーン、窓のLow-Eガラスによって、日射遮蔽を行うことも、夏を快適に過ごすための必須アイテムになっています。最近では、屋根面の日射量が多いことから、太陽光による屋根からの日射の侵入を防ぐ遮熱フィルムの施工も行われています。
↑遮熱シートと通気層、木質繊維断熱材による屋根断熱
5)木は腐る、シロアリに食われるというデメリット対策
自然素材である木材にとっての大敵は、水による腐れとシロアリによる食害です。長い間水にさらされ続けると、木材は腐朽菌により分解されてボロボロになります。特に壁や屋根、床下などの躯体内部に断熱気密不良による結露や漏水が繰り返し発生すると、気がつきにくい部分であることもあり、構造材の腐朽が進むことが見られます。
それを防ぐためには、床下、外壁、屋根の防湿工事と合わせて、結露が発生した場合に、その結露水を滞留させない通気層、通風層の確保と防水性を高めるための、確実な設計、施工を行う必要があります。
↑室内から壁内部に侵入する水蒸気を防ぐ防湿層
また、シロアリ対策として薬剤塗布がよく行われますが、シックハウスによる健康被害を抑えるために効能が5年に制限されているものが多く、5年毎の再工事による健康被害やメンテナンス費用の負担が指摘されています。
そこで、人に無害で、適正な施工が行われれば半永久的に効果が持続するホウ酸塗布が評価されています。腐れやシロアリに強いとされる日本の気候風土で育った桧やヒバ、杉などの優良な国産材を利用することが基本です。
↑ホウ酸による防腐、防蟻工事
6)自分らしい暮らしができる設計、デザイン
木の家に魂を吹き込むためには、住む人の暮らし方や趣味、個性を活かした家にすることです。
家族が集まって食事を作って、食べて、寛ぐ場をどのようにイメージするか、椅子座なのか、床座なのか、浴室、洗面、洗濯、トイレなどの水周りを家事優先で回遊性を持たせるか、衣類収納は集約するか分散するか、子供の成長と家族の将来への対処などを始め、個人の趣味や細部への拘りまで、家族の心の中を掘り下げ、木の家の宝物を探すように、設計者と家族が一緒に、ワークショップ的に暮らし方、家づくりにおいて大切にすることをイメージすることから始まります。
デザインのためのデザイン、設計ではなく、住む人の暮らしから考える、自分らしい木の家をデザインすることが重要です。
◎趣味の自転車を楽しむガレージ
自転車を自分でチューンナップしたり、飾ったりするガレージをリビングに隣接させて、生活の中に組み込んでみるのも良いでしょう。出入り口の建具を開放することで、庭との一体性を確保できます。
◎薪ストーブをリビングの中央に置く
薪ストーブ1台で家全体の暖房をまかなうために、ワンルームの大きな音楽ホールのような空間としています。天井が一番高い場所に置くことで、熱効率を最大限に高くしています。
◎キッチンをオープンカウンターにして家の中心に置く
オープンカウンターキッチンとダイニングを中心にして、吹き抜けを設けることで、家の中心に位置づけ、料理教室も開けるように設計
◎野草を楽しむ庭とバードカービングのためのアトリエ
リビングと連続する奥様の野草の趣味を活かした庭と、その庭を望むことが出来るご主人のバードカービング用のアトリエ
↑野草を楽しむ庭
↑バードカービングをするアトリエ
◎縁側がリビングのサンルームに変化
庭とリビングの間に縁側的なスペースをという発想から、最終的に物干しスペースにも利用できるサンルームに変化
7)お手入れのコツがわかると気軽に付き合える自然素材
木の家、自然素材は良いと思うけれど、お手入れが大変ではという方がいらっしゃいます。
確かに、工業的な建材や膜を作るような塗装品に比べて、少し注意が必要ではあります。
しかし、お手入れのコツを掴むことで、気軽にメンテナンスが出来ます。
自然塗料の床に拭いても取れない汚れが出来た場合は、サンディングブロックという研磨用のサンドペーパーを使って削り取り、メンテナンス用の自然塗料をウェスで塗るだけで比較的簡単にお手入れが可能です。
漆喰の手垢も、中性洗剤とスポンジで軽く水洗いすると綺麗になります。
ロール和紙も、同じロール和紙を「食い裂き」という水で濡らして、引っ張るように和紙を裂いて、切り口を毛羽立つようにして糊で貼ると重ねた部分が目立たなく貼ることが出来ます。
その他、自然素材の特徴を学びながら、お手入れのコツを掴んで、家族で一緒に取り組むと、家にどんどん愛着がもてます。
そして、時間が経てば風合いがまして、長く使え、トータルに見て安上がりになるのも自然素材の意外な特徴です。
日本の森、環境と繋がる木の家づくり
木の家の木材は再生産が可能で、その成長過程で二酸化炭素を吸収し、木の家として固定化したまま、新たに二酸化炭素を発生させない、持続可能な素材です。
森林の木材が継続的に利用されることで森の管理も適正に行われ、日光が地面まで届くような自然環境豊かな森は、豊かな水を海に送り、大雨もゆっくりを浸透させることで災害を防ぎ、二酸化炭素を吸収し、酸素を供給してくれる命の源です。
一つ一つの木の家づくりが、自然素材を供給、生産する地域の産業、暮らしを守り、人の交流を生み、未来に貴重な自然を受け継いでいくことに繋がります。
自然素材の木の家づくりが、日本の未来を支えていく大河の一滴になることを期待しています。