構造種別ごとの外断熱工法・内断熱工法

「外断熱」の基本を知ろう

 
今では建築に断熱を施すことは常識ですが、ある時期までは「断熱」の無い建築が主流でした。
今日、断熱材の種類や工法について、色々な情報が溢れていますが、基本的な考え方を押さえておかないと、情報の出し手の意図や都合に振り回されてしまいかねません。
そこで、今回は、最近よく耳にするようになった「外断熱」の基礎知識を整理してみましょう。
 
建物には、木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造等いろいろな種類がありますが、簡単に言いますと、この骨組み、「構造躯体」に対して、「断熱材」が部屋内側にあるのが「内断熱工法」、部屋外側にあるのが「外断熱工法」となります。
「構造」の違いによって、断熱の考え方にも少し違いが出てきますので、構造種別ごとに、少し詳しく「外断熱/内断熱(工法)」を見ていくことにしましょう。
 

1. 鉄筋コンクリート造

 
構造躯体の内側、外側が一番イメージしやすい「鉄筋コンクリート造」から、お話を始めたいと思います。
 
現代の日本では、マンションを始めとする鉄筋コンクリート造建築の多くは、「内断熱工法」で造られています。
建築環境工学的には、断熱材の性能と厚みが同じであれば、断熱材が躯体の内側にあっても外側にあっても、断熱性能は同じになります。
ところが、現実の施工では、内断熱の場合、例えば外壁に床や間仕切り壁が取りつくところなどに、断熱材が連続しないところが出てきてしまいます。
断熱が切れてしまうと、そこから熱が逃げてしまうので(「熱橋」といいます)、エネルギーのロスが生じます。
 
また、場合によっては、表面温度の低下から、結露やカビの発生につながることもあります。
これに対して、「外断熱工法」の場合は、床や間仕切り壁のない外側に、断熱材を切れ目なく連続して施工することができるので、そういった問題が起こりにくいのです。
 
また、外断熱の場合、建物全体をすっぽりと断熱材で包むことになりますので、熱容量が大きいコンクリートの躯体全体を「畜熱体」として利用することができます。
その結果、外気温が変化したり、エアコンをオン・オフしたりしても、急激な温度変化が起こらない、快適な室内温熱環境が実現します。
出入りする熱量(断熱性能)が同じでも、もともと蓄えている熱の量が多ければ、温度の変化は小さくて済む、お風呂のお湯が冷めにくいのと同じ理屈です。
 
それからもう一つ、これは「断熱性能」や「温熱環境」とは異なる話なのですが、建物の耐久性の面でもメリットがあります。
日射や外気温の変化により、躯体であるコンクリートは伸縮を繰り返して、徐々に劣化してしまうのですが、外断熱工法では、構造躯体の外側で断熱しているので、熱伸縮も小さくなります。
また、断熱材の外には仕上げ材も施工されますので、躯体が風雨からしっかりと守られることになります。
これらが相まって、コンクリート躯体の劣化対策として、外断熱は大きな効果があるのです。
 
これらのメリットを考えると、鉄筋コンクリート造と外断熱は相性が良いように思われます。
海外では、外断熱が主流となっている国も多いようです。
 
しかし、実際に外断熱工法を採用しようとすると、コストと耐久性、防火性能のバランスがとれた外壁材がなかなか見つからない、また、住宅に設けられることの多い、庇やバルコニーなどの外壁から跳ね出す部位周辺の断熱処理が難しい、と言った技術的課題があり、残念ながら、日本ではまだまだ普及しているとは言えない状況です。
 

2. 木造

 
それでは、木造における「外断熱」工法とは、どういった工法なのでしょうか?
 
ご存知のように、木造住宅には、大きくは柱、梁などの軸組により構造躯体がつくられる「在来工法」と、パネル化された壁により構造躯体がつくられる、2×4工法を始めとする「枠組み壁工法」があります。
どちらの工法の場合でも、柱と柱、あるいはパネル内に空隙がありますから、そこに断熱材を充填すれば、余計な場所を取らずに済み、合理的です。
こういった、以前から行われていた断熱材の施工方法に対し、躯体の外側に断熱材を設ける施工方法を「外断熱」と呼んでいます。
 
ところで、鉄筋コンクリート造のところで説明した、「構造躯体の畜熱性能」を利用し、快適な温熱環境を実現することが外断熱工法のポイントだとすれば、躯体の熱容量が小さく、蓄熱効果が期待できない木造住宅に対して「外断熱」という言葉を使うことには、違和感が生じます。
また、「内断熱」という言葉も、躯体の部屋内側でなく、躯体の隙間に断熱材を詰める形で施工する木造住宅には、今一つそぐわない印象です。
 
そういった理由から、木造住宅に関しては「外断熱/内断熱」でなく、工法の実態に即して、「外貼り断熱/充填断熱」と呼ぶ専門家も多いのです。
とはいえ、「外断熱」という言葉は広範囲に市民権を得ており、一般的には木造住宅に関しても使われているのが実情です。
やや面倒な話ではありますが、こういった言葉の背景についても知っておいて頂ければと思います。
 

メリット

まずは、鉄筋コンクリート造と同じように、断熱材が、柱や梁などの部材で分断されずに、継ぎ目無く連続した形で施工できる、という点が挙げられます。
木は、鉄やコンクリートに比べて熱貫流率が低い(=熱を通しにくい)材料なので、その部分で断熱材が切れることは、以前はあまり問題視されていませんでした。
しかし、充填工法には、断熱材が連続していないだけでなく、筋交いやコンセントボックス周りなど、断熱材の施工がしにくく、性能低下に繋がりやすい部位がある、というデメリットもあります。
近年の、より高い断熱性能を求める動きの中で、外断熱が注目されているのです。
 
また、木造建築には「壁体内結露」という、壁の中に入り込んだ部屋の湿気が外壁面で冷却され、結露現象が生じることがありますが、外断熱工法はそれへの対策としても有効です。
現在の木造住宅は、木製建具に代わってのアルミサッシの採用や、外壁下地に構造用合板を全面に貼る、といった工法の変化により、一昔前と比べ、かなり高い気密性能をもっています。
省エネルギーの観点からは、気密性能の向上は望ましいことですが、そのことが壁体内結露を発生しやすくさせている、ともいえるのです。
壁体内結露が起こると、湿潤状態になった壁内の木部が腐朽し、耐久性に大きな影響を与えます。
 
対策としては、部屋の中から外に順に透湿抵抗の高い(湿気が通りにくい)材料を配置する、木造躯体部分と、サイディングなどの外壁仕上材の間に、空気の流通する隙間(通気層)を設け、壁内に入り込んだ湿気を逃がす、などがありますが、外断熱工法は、壁体内結露の防止に適した材料配置になっており、この面において非常に優れた工法です。
 

デメリット

 
これは鉄筋コンクリート造などの他の構造でも同じですが、断熱材や通気層の厚さ分、外壁が外に膨らみ、建物の外形が大きくなってしまいます。
敷地が限られ、隣地境界との距離に注意を払わなければならない都市部では、特に注意が必要です。
また、断熱材の厚みによっては、窓などの開口部に特殊な部材が必要になりますので、建設コストが割高になります。
 
そして、気になるのが外壁の仕上です。
外断熱工法の場合、下地となる木造躯体から、断熱材や通気層を越えた先に仕上材を取り付けなければなりません。
外壁には十分な耐久性が要求されますので、しっかりと施工する必要があります。
 
また、万一の火災に備え、断熱材は燃えにくい性能であることが求められます。
仕上材の防耐火性能と合わせて、外壁全体でどのレベルを確保しておくのか、十分検討しておく必要があります。
 

鉄骨造

 
鉄骨造では、鉄骨の骨組みをそのまま見せるようなデザインの建築を除いては、一般的には骨組みの外に外壁や屋根を造って躯体を包みます。
断熱材は外壁材に組み込まれることが多いので、鉄骨造の多くは「外断熱」工法である、とも言えます。
 
鉄は熱伝導率が非常に高いので、結露防止の観点からも、構造体の外で断熱を行うことが望ましいのです。
ただ、蓄熱の観点からは、熱容量の小さい鉄骨躯体には多くは期待できません。
また、多くの軽量鉄骨造の工業化住宅は、断熱の主軸を「充填断熱」部分に置いているようです。
 

まとめ

 
以上、各構造種別ごとに、外断熱工法(外貼り断熱工法)と内断熱工法(充填断熱工法)について、その特徴を見てきました。
断熱工法は、建物の構造や周辺環境、期待する性能にマッチした工法を、総合的な観点から選択することが必要です。
本記事が、皆様の適切な断熱工法選択の一助となれば幸いです。
 

執筆者

有限会社 金山眞人建築事務所 金山眞人
杉並区上井草4-14-9 グランドール西山303号
03-5303-9350