渡辺篤史の建もの探訪ービルの谷間の幾何学マドの家(松下慎太郎+鈴木崇志、+S/一級建築士事務所タスエス)
雨続き。
梅雨だからあたり前。夏の前のお約束。
分かってはいるけれど、ぱあっと気持ちよく洗濯物を干したい!
◇ ◇ ◇
今回の建ものは「ビルの谷間の幾何学マドの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/25
梅雨でなくても、ぱあっとは、洗濯物を干せそうにないけれども。。
◇ ◇ ◇
街に開いた「窓」。そのことが、とても丁寧に考えられていた。
隣接する建ものとの関係や視線の抜けを考えて、高さ、大きさを様々に、
そしてその配置は、建ものの角に集まりゆくようなリズムを持たせてある。
街に接する建ものの角を、無理なく大きく、やんわりと、街に開いている。
「都市に内部空間が溶け込むような、境界が消え行くような在り方を目指しました。」
というのが建築家の言葉。
外観は、大きな窓のリズムが軽やかで楽しい。
確かに建ものが、街にちゃんと開いているのだと感じられる。
北と東向きの建ものだけれど、建てものの内部はそれなり明るい。
このお家のご家族は、この窓をとっても楽しんでいらした。
朝日を浴び、小さな視線の抜けを楽しみ、通りを行く人の気配を感じ、
家のあちこちで街を感じていらっしゃるようだった。
マンションは、部屋から出ればそこはマンションという建もので、
街と繋がるにはもう一つ、外に出なくてはいけない。
それは、物理的にも気分的にもそういうものだと思う。
だからやっぱり、一戸建ての魅力のひとつは、外に直接繋がっている、
ということなのだと思う。
だからこそ、この東京「中央区」という地の「一戸建て」として、
どう街に開くか、それはとても大切なことで、丁寧に考えられたのだろう。
そうはいっても、窓から見えるものはビルの壁、ビルの窓。
外が楽しく、積極的に眺めていたい、という窓ではない。
緑が入り込まない窓は、私の田舎者感覚にはやっぱりちょっと息苦しい。
街には開いて暮らしたいけれど、さしてカーテンは開きたくない。
そんなふうに思ってしまうのではないかとも思った。
そんなふうに、土地柄の限界はあろうけれど、
「KADOKESHI(カドケシ)」と名前がつけられているこの建ものの意図は、
とても素直で心に響く。
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このお家は、都会的な内装のデザインも素敵だ。
白で統一された壁や天井。
ツルリ、サラリと清潔で、楽しい装い、素敵な雑貨も良く栄える。
そして床や照明、細部のデザインがとても工夫されている。
リビングダイニングの床は、とっても華やか。
同じ材を6色に分けて色付けし、それをフレンチへリボーンという山形に張ってあった。
以前にもフレンチへリボーン張りをしているお家の紹介があったけれど、
今回のはパターンが大きく、そしてカラフル。
すごく大胆だけれど、外も中も真っ白なこの建ものにあって、
とても温かみがあって華やかだ。
リビングダイニングの天井に、十文字に光のラインを描くように入れられた照明も印象的。
どこか古風な印象のあるフレンチへリボーン張りの床の部屋が、
近未来的にぴりっと締まる。
そして、台所と対面するように造作で設けられた棚に隠されているのは、
息子くん用の勉強机と用具入れ。
都会的な大人な空間だけれど、確かに子育ての場だ。
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3階には、ビルに囲まれた建ものであるがゆえの工夫がもう一つ。
部屋の中心に細長い中庭のようなバルコニーが設けられている。
渡辺篤史さんは、「水槽みたい」と表現された。
「水槽」を取り囲んでロの字型になった部屋。
将来的に部屋を2つに分けた時にも、2つの部屋でバルコニーを共有できる。
番組HPのなどの写真で見直してみると、どうもバルコニーの枠がごつくて、
部屋の真ん中の鎮座した邪魔っけなもの、という気がしてしまう。
けれども映像で見ると、なかなか面白い空間だった。
通路みたいな細い部分にすっぽり置かれたベッドは、なかなか居心地が良さそうだし、
小さくてもプライバシーが確保された「外」を持つというのは、
やっぱり豊かなことだ。