渡辺篤史の建もの探訪ー街を一望!アトリエのある家(東端桐子、ストレートデザインラボラトリー)

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建もの探訪ファン
感想: 

いつの間にか、夏本番。
暑い暑いと毎日文句は言うけれど、私は夏がとっても好きだ。
さっといい風が吹く爽やかな早朝とか、
世の中はみな昼寝中とでもいうような静かで暑い昼下がりとか、
下駄鳴らしながら歩くまだ生暖かい夜とか、
「夏休み」の雰囲気とか。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「街を一望!アトリエのある家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/26
建主と建築家のコラボ。芯があって、細やかで、とても素敵な建ものだ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
約60坪という広さのある敷地に、ぎゅっとコンパクトにまとめられた18坪の家、
そしてゆとりのあるガレージスペースと庭。
そんなバランス感覚がとてもいい。
 
昭和40年代に開発された住宅地に建てられたこの建もの。
その場にすんなりと馴染むように、という建主の思いがあったという。
建築家は、その敷地にもともとあった生け垣や飛び石、塀の一部などを美しく生かし、
新しい建ものを古い住宅地にすんなりと溶け込ませた。
 
隣家との心地よい距離をとった立ち方、街に似合う佇まい。
外観から感じおとれる、そんな建主と建築家の配慮と美意識に、
早速私たち夫婦は共感のにっこりで顔を見合わせた。
 
             ◇ ◇ ◇
 
設計を担当したストレートデザインラボラトリーのWebページでも
この建物の紹介を読んでみた。
そこにはものづくりが大好きな比留間夫婦とストレートデザインラボラトリーの「コラボ」
という表現があった。
確かにそのことを、私も番組での紹介を見て強く感じた。
 
比留間夫婦の暮らしやものに対する美意識、考え方はとてもしっかりしたものを
もっていらして、はっとさせられたことがいくつかあった。
そのひとつは、収納と家具のこと。
 
番組では特にコメントされていなかったけれど、建築事務所Webページでは、
”部屋の使い方や置くものも状況に応じて変えながら暮らしていきたいと思っていたので、
造り付けの収納は最低限にしてもらいました。
家具も、動かしやすいものを使っています。”
との奥さまの言葉を紹介されている。
 
台所の収納ですら、吊り戸棚や作業台の下の棚を作り付けていない。
作業台の下は、ワゴンなどを自由に置いてものを収める。
目隠しにするような扉も設けていない。
 
収納家具を置かなくてよいのであれば、確かにお部屋がすっきりする。
持っているものをすっかり建築家に把握してもらって、
それを収められるだけの収納を作ってもらうことだってできる。
しかし、状況はどんどん変わるし、どこに何を置くかは暮らしながら決めていくものだ。
その時々で、自分達に必要なものを選び、自分達でしかるべき居場所を作る。
そういうものとのつき合い方や暮らしの作り方は、とても素敵だ。
 
             ◇ ◇ ◇
 
私がこの建もので一番心ときめいたのは、玄関の土間だ。
 
玄関には広く土間スペースがとってあって、正面には黒い薪ストーブが据えられている。
黒い煙突がまっすぐに伸びている。
そして左手には、上半分がガラス張りになった間仕切りを隔ててアトリエが見える。
 
薪ストーブは、ただの暖房装置ではなく、
どこか家の心臓のような大切な核心を象徴しているように感じた。
そのストーブに迎えられるというのは、
火が入れられる冬でなくとも、とても美しくて心のこもった玄関の設えだと思った。
 
そして、土間の一角にとられたアトリエの存在も印象的だ。
使い込まれたたくさんの道具が並んだお部屋は、それだけでワクワクする。
オープンアトリエやギャラリーとして開くことを考えての計画だろう
そうやって、アトリエという存在が、ワクワクの源であり、
街の人を迎え入れる核に位置づけていることがまた、とても素敵だと思った。
 
この土間スペースは、単なる玄関であることに留まらず、
居間のような、小部屋のような、縁側のような、
すごく魅力的な場所だ。
  
大きな建ものではない。
でも、シンプルで、大胆で、細やかで、
比留間家と建築家の感性でぎゅっと濃縮された、
とても魅力的な時間が詰まった建ものだと思った。