渡辺篤史の建もの探訪ー都心の箱 立体ワンルーム(阿蘓俊博、 アソトシヒロデザインオフィス一級建築士事務所)
大きな笑い声をあげながら、ひたすらブランコに揺られる娘。
こんなに空が高いもの。そら気持ちいいね。
◇ ◇ ◇
今回の建ものは「都心の箱 立体ワンルーム」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/35
中層マンションやテナントビルが混在した街の小さな一角。
細い道路1本隔てた先に見えるのは幹線道路。
一戸建てを持つならもっとゆったりとした静かなところに、
と、田舎者の私なら必ず思いそうな環境だ。
それでも、「住んでみたい!」
そう思わせてくれる素敵な建物だった。
◇ ◇ ◇
まず、玄関ホールがダイナミックで都会的で、すごく印象的だった。
建物の高さ分5.8mの吹き抜けで、真っ白な壁に挟まれた通路状の玄関ホール。
高く立ちのぼる真っ白な壁には、家族の写真がいっぱい飾られている。
写真はどんどん増やしていきたい、と紹介されていたから、
子供達がすっかり大きくなる頃には、きっと、壁の高ーいところまで
楽しい写真で一杯になるだろう。
床には、茶色に黒のグラデーションが入ったタイルが敷かれていて、
その床がとっても表情豊か。
どこか路地に入り込んだような雰囲気だった。
タイル敷きの玄関ホールを、小径を行くようにつたって進む。
階段をのぼり、のぼった先はダイニングスペースになっていた。
階段の踊り場のような囲われた空間で、なんとも心地よい狭さだ。
ちょうど頭の高さくらいの壁の一部ががらりと開くと、
そこには、数段高くなったキッチンが現れた。
階段を挟んだキッチンの反対側の壁には、真四角に切られた入り口があって、
そこは天井の低い物置スペース。
天井の低さが小さな人たちにはぴったりで、
今はまだ、物置ではなく子供達のお城になっていた。
踊り場のようなダイニングスペースからさらに階段をのぼると、
そこは、ゆったりしたソファーが置かれたリビングだった。
キッチンもリビングも、2辺は胸くらいの高さまでの壁になっていて、
玄関ホール、ダイニング、キッチン、リビングは、ひとつの空間として繋がっている。
キッチンやリビングに立てば、まるでビルの屋上にいるよう。
キッチンやリビングに立つ爽快感、ダイニングの囲まれた安心感、そして、
ぜんぶの空間がひとつになっている一体感。
そうしたそれぞれの空間から感じるものが、れぞれにとても適切で心地よく、
家としての温かみや過ごしやすさがある建物だということが、
画面からひしひしと伝わってきた。
◇ ◇ ◇
つまりはこんな構造になっているようだ。
この建物、 3つの箱からできている。
ひとつ目の箱は、建物の一番外側の大きな真っ白な直方体。
その上面は、全部屋上テラスになっている。
ふたつ目の箱は2番目の大きさで、上面がリビング、中は2段で物置とクローゼット。
みっつ目の箱は高さも幅も一番小さくて、上面がキッチン、その中はお風呂と洗面所。
ふたつ目の箱とみっつ目の箱をひとつ目の箱の中に据えて、
その箱と箱の間には、通路(玄関ホール)と階段、箱と箱をつなぐような踊り場を置いた。
その踊り場がダイニングスペース。
そのダイニングスペースの下にはもう一部屋、主寝室が生み出された。
建物の中に据えられ2つの箱は、それぞれまるでビルみたい。
路地と広場が楽しくつなぐ。
都心の一角の小さな箱の中に、街がもうひとつ。
都心の一角をどう切り取って自分達だけの空間を守るか、
そんな内向きの発想ではなくて、
小さな箱の中に大きな世界をもうひとつ。
都心の空気や人を引き込んで、4時限空間みたいに大きく広がっているような気さえした。
◇ ◇ ◇
家族の成長に合わせた空間の使い方の工夫も面白かった。
1階には、続きになった寝室と、スキーやボードも収納できるクローゼット部屋がある。
将来的にはこの寝室を二人の子供のための個室に、隣のクローゼットをご夫婦の寝室に、
と変化させることを考えているそうだ。
クローゼットを寝室にする際には、今は子供達の遊び場なっている物置スペースが、
本来の役割を担う。
小さな空間だけれど、その広がりは無限大。
使い方もまだまだ工夫の余地はあり、家族に合わせて変化させられる。
そういう柔軟さもしっかり備えた素敵な建物だった。