渡辺篤史の建もの探訪ー機能美を追求した異空間(宮田一彦、宮田一彦アトリエ)

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建もの探訪ファン
感想: 

先日、車で遊びに行った先でタイヤをひどくパンクさせ、
JAFのレッカー車にお世話になってしまった。
JAFのお兄さんは、次から次へと魔法のようにレッカー車の荷台から
必要な部品や工具を取り出しては、無駄のない動きで丁寧に設置し、
あっという間に我が家の車はレッカー車の後ろにぴったりと取り付けられた。
他にやることもないから、じっくりお仕事ぶりと装備を観察しながら、
それはもう、惚れ惚れとした。
無駄のない装備、無駄のない作業。
そういう無駄のなさ、そっけなさが持つ心地よさ、かっこよさは、いいなあ。
娘は修理先で風船をもらってご満悦。
たまの災難も、そう悪くなかった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「機能美を追求した異空間」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/40
JAFにうっとりした今週の私にぴったりの、業務用いっぱいのお宅だった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回のお家は、業務用や工業製品、軍ものなどが大好きな建主のお宅。
タイトルのように「機能美を追求した、、」というよりは、
趣味の「業務用」が持つかっこよさ、雰囲気を生かした、という方がぴったりだ。
以前から集めていた業務用雑貨や家具が似合う空間を希望されたとのこと。
その趣味趣向と建ものが、見事にひとつになっていた。
  
足場などに使われるグレーチングを縦に使って外塀としたり、
そのままベランダに使ったり。
LDKの扉には、スーパーの売り場と作業場との出入り口として使われている、
あのブラブラしながら自然に閉まるギンギンのドアを使ったり。
建主は、好きな小物を選ぶその目で、 建具やタイルなども
楽しく選ばれたようだった。
 
好きだと思うもの、かっこいいと思うもの、
それがぶれずにちゃんとひとつにまとまるというところが素晴らしく、
見ていてとっても潔くて気持ちがよかった。
 
              ◇ ◇ ◇
 
この建ものの肝は、中庭だった。
間口がそれほど広くなく、細長く奥に伸びるような敷地にあって、
建ものは真ん中に庭を挟んで2棟に分けられている。
2棟を結ぶ廊下は、2階部分は屋内廊下、その下に1階の外廊下という形になっている。
この1階部分の廊下が、屋根はあれど外だ、ということがとても印象的だった。
 
玄関を入ると、奥の棟の入り口へ向かう廊下が現れる。
その廊下の壁、入って右手側(隣家側)の壁は、
工事用の足場などに使われるグレーチングが縦に使われている。
塀か柵のようで、外の空気が遮断させずに「外」だ。
玄関だと思って入った扉は門で、奥に本玄関がもうひとつ、
といったらよいだろうか。
2階部分が屋内廊下になっているから、「コ」の字の建てものだけれど、
ほとんど「こ」の字。
町屋の坪庭のような、教会や学校の回廊のような中庭のある建もの、
というよりは、2棟の建ものとその間の庭に、
すっぽり「高い囲い」をつけたという印象だ。
 
その「高い囲い」は、南側は半透明のポリカーボネート板、
北側は2階の渡り廊下とその下のグレーチングや木製の格子で成っている。
ポリカーボネート板は光を遮断することなく庭や開放的なLDKを明るくしていた。
1階部分の木製格子やグレーチングは、広くはない敷地の閉ざされた空間に
健全な空気の流れを生んでいるようで、見ていて気持ちよさを感じた。
ああ、だから1階廊下は「外」だったのだ、と納得できる。
 
建ものの紹介を全部見終えた今、 
玄関を入ったのに外なんだ、、。
という最初の驚きは楽しく心に残りつつも、
庭の確かな存在感と開放的なLDKを感じながら、
内も外も関係なくひとつの守られた空間であるのだ、
というその一体感が、すごくいいなと思えている。
 
             ◇ ◇ ◇
 
この建ものは、小さいのに「離れ」がある。
手前の棟の1階の部屋は、手前の棟の2階、奥の棟とは直接屋内で繋がっていない。
1階の渡り廊下は外廊下だし、手前の棟には階段がないのだ。
 
この一室、今は客間としているけれど、
将来的には今の寝室(奥の棟の1階)は子供部屋に、この離れ部屋を夫婦の寝室に、
と考えているとのこと。
寝室が離れ、というのは何かと不便だろう。
真冬に寒い思いをしたくないし、雨の夜に濡れたくもない。
どんな意図を持ってこうなったのか、妥協があってのことなのか、
本当のところはよく分からないけれど、
私にとってはちょっと心惹かれる一室で、
こんな寝室もよいかもしれないとすら思った。
寝る前、自然に夜空を拝めるし、静かに外の音に耳を傾ける時間が持てる
かもしれない。
朝、必ず朝一番の空気の中を歩かなくてはいけないのは、なかなかいい。
子供達のいる子供部屋は、小さな庭を挟んですぐそこで、地面で続いている。
その距離感や安心感が絶妙だと思うのだ。
 
業務用の趣味がひとつにかっこよくまとまることも、
こんな部屋のあり方の楽しさも、
建主と建築家のセンス、ということなのかなあ。