渡辺篤史の建もの探訪ー築山を抱く コの字型の平屋(岸本和彦、有限会社acaa建築研究所)

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感想: 

外装工事のせいで家中暗くて過ごしにくいけれど、
こんな時こそ楽しく明るく過ごしたい。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「築山を抱く コの字型の平屋」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/43
心豊かな立体空間。
 
             ◇ ◇ ◇
 
ぐっと心を掴まれるような建ものだった。
どんな人が設計したのだろうと、それが早く知りたくて、
見終わるやすぐ、番組HPを見てみた。
そして、納得した。
 
この建築家の作品を見るのは、この感想を書き始めてから3つ目になるのだった。
これまで見た2つの作品は、とても心に残っていた。
どちらの作品もスキップフロアーが印象的で、とにかくワクワクした。
そして、何より本当に心地よさそうな空間だった。
今回の作品もまた、しかり。
 
「立体的でスキップフロアーのある家」
というのが建主からの希望だったという。
建主もこの建築家の作品のその立体感に惹かれたのだ。
 
今回の作品を見て改めて、その立体感の魅力を感じた。
自然の中で居場所を見つけるような楽しさや、そこで感じる心地よさ、
心の動きのようなものを、この建ものでは感じることができる気がした。
大きな石に上ったら、ちょっと見晴らせた嬉しさとか、
窪みに入ってみる落ち着きとか、そういうこと。
この建築家の作品に、私もいちいちワクワクしたのは、
そういう感覚を作品から感じとれていたからかなと、
今回の建ものを見て、改めて思った。
  
             ◇ ◇ ◇
 
この建ものは、106坪という広さ、隣は公園という敷地に建つ。
もともとは傾斜のない平かな土地。
そこに築山を作り、建ものはそれを抱くようにコ字型をしている。
そして、築山の傾斜に合わせたスキップフロアーになっている。
 
隣の公園との境、道路との境界に塀などを設けておらず、
この築山が平屋の建もののプライバシーをしっかりと守る。
 
この築山というアイディアが、ガーン!と衝撃的で、
ものすごく素敵だった。
道路や公園から見ると、景色や空気を遮断しない温かさがあるし、
建ものの中に入れば、その築山に守られている安心感がどっしりとある。
それはもう、塀1枚とは違うどっしりだ。
そして、その築山から滑り込むように、「外」が建ものに入り込んでくる。
中庭をぐるりと囲む縁側が外と内をつなぐ。
平屋なので、どの部屋からも庭に手が届き、
いつでも自然に庭を見やるような建ものだ。
そして寝室へは、一旦縁側に出ないと入ることができない。
外を身近に感じ、実際に肌で感じながら暮らす豊かさのある家だ。
 
建築家の言葉の中には、建主はそんな暮らしを存分に楽しめる人である、とある。
素敵な建ものは、素敵な建主があって生まれるのだろう。
 
             ◇ ◇ ◇
 
建ものの楽しい立体感も何よりの魅力だった。
 
コの字の真ん中の一辺はLDK。
縁側に沿った細長い空間が、食卓と作業台が一体になった台所と食事スペース、
そして飾り棚で区切られた居間スペースとに分けられている。
食卓は掘り炬燵形式になっていて、床に腰掛け食卓につく人と、
台所作業で立つ人との視線が合うように、台所スペースは一段掘り下げてある。
だからもちろん、縁側にいる人とも視線が合う。
居間スペースも、一段下がる。
4畳分くらいだろうか。低いソファーが据えられていて、
ちょっと囲まれた落ち着く小さなスペースだ。
ソファーに座れば庭を少し見上げるような形になり、
築山はきっと、ぐっと迫力を増す。
 
コの字のもう一辺は、子供スペース。
仕切りのない大空間が3層に分かれて段々に上る。
1層目はご主人自作のクローゼットと机置いたスペース、
2層目はちゃぶ台を置いた遊びスペース、
3層目は畳スペースで来客時には泊まってもらえるように
ブラインドでの仕切りを設けている。
そして3層目は高さがあるから、その下が物置スペースになっている。
今は子供達の秘密基地のような遊び部屋だ。
内も外も隔てなく、本当に自由にのびのびと過ごせる素晴らしい空間だと思った。
そして何、「立体的」は心がたくさん動く。
想像力が掻き立てられる。
 
106坪の敷地とはなかなかの広さだけれども、
その広さが隅々まで生きた、とても豊かな建ものとお庭だった。