渡辺篤史の建もの探訪ー南北2つの顔を持つ家(横地哲哉)

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感想: 

外は寒いけれど、今日もしっかり着込んで元気に外遊び。
ちょっとした自然いっぱいの遊び場は、本当にありがたい。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「南北2つの顔を持つ家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/44
細やかでいて大胆。家族への思いがあふれる建物だった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
ゼネコンでビルなどの設計をされている設計士さんが、
自分の家族のために手掛けられた建ものだ。
小さな住宅を設計するのは初めてのことだったそうだ。
そう言われてみると、照明や意匠などで新鮮に感じるところがいくつかあって、
それらは、「そういえば、丸の内をうろうろすると出会うなあ」と納得。
でもそれは、ホテルや洒落た商業施設などのお出かけ先で感じる
華やぎや楽しいちょっと気取った気分をもたらしてくれる、
素敵なエッセンスだと思った。
 
一番新鮮だったのは玄関ホール。 
この建もの、1〜2階は吹き抜けのワンルームになっている。
その居間の一部が一段高くなっていて、
玄関ホール、通路、ベンチ、一部収納が兼ねられている。
その段差部分の床には、壁に沿ってL字型に照明が埋め込まれていた。
ツヤっとしたフローリングの感じと相まって、
段差はちょっと舞台のようでもある。
ビルのエントランスや通路ではもちろんよく見る照明の入り方と床の雰囲気だけれど、
これがすごくお洒落。
ほんの一部の段差が、居間の一部でありながらも
きちんと緊張感を保った玄関ホールにもなっていた。
 
これまでに番組で紹介された建ものには、
大きな建物を多く手がけている方が設計された作品がいくつかあった。
中には、隣で見ていた夫が、
このカーペットとか、床の感じとか、空間の雰囲気が
なんとなく会社を思い起こさせられていやだなあ、
などとつぶやいていた作品もあった。
今回の建ものも、「ザ、木造住宅」とは違う硬さのようなものも感じる部分もあるけれど、
「おとうさんの目」といおうか、とても細やかであたたかい目を持って設計されたのだ、
と感じられる、明るく美しい建ものだった。
 
             ◇ ◇ ◇
 
設計者であるご主人には、ワンルームのようにしたい、そんな思いが強くあったようだ。
番組HPの「建築家からの一言」では、こんな言葉になっている。
”明るい陽射しが差し込むこの空間では、家族がつながり、
明るい生活が営まれ、仲の良い家庭が育まれます。
私が設計したのは、そんな理想の住まい方だったのだと思います。”
その言葉が、そのまま形になたような建ものだ。
 
それぞれの過ごし方をしているけれど、同じ空間にいる、
そういうのがいいね、と、私も夫とよく話をする。
家族が一緒にいる、というのは、すごく大切なことだと思う。
この建もの中には、それぞれの過ごし方、それぞれの居場所を
自由に作れる工夫もされていた。
 
ひとつは、自由に座れる場所をあちこちに設ける、ということ。
リビングスペースには、ソファーやダイニングテーブル以外にも、
先に紹介した玄関ホール部の段差や階段が腰掛けとなる。
段差に座れば、1階、2階を見渡せる楽しさがあるし、
階段は、吹き抜け部分の大開口に対しているから、
明るい陽を浴びながら、借景の大きな木が揺れるのをじっくり眺められる。
(いや、階段は片持ち状になっているから、階段が椅子と机になるように、
足をぷらぷらさせて座るのかもしれない。)
 
もうひとついいなと思ったのは、勉強スペースと書斎。
2階には、吹き抜けに面してL字型に机が造作されている。
子供たちの勉強スペースになることを意識したスペースと、
造作の書棚を背にした書斎スペースが一辺ずつ。
勉強をしたり仕事をしたり、同じように机に向かう時、
おとなもこどもも自然とひとところに集まれる。
私はそういう場所があるというのも、とっても素敵だと思う。
 
             ◇ ◇ ◇
 
この建ものは、外観、庭と建物との関係もなかなか素敵だ。
 
建ものは、とにかくシンプルな白い箱。
そのシンプルさに面白みや軽やかさを出すためと、
少しだけ浮いたようなデザインになっている。
そういう細やかさが、私はとっても好きだ。

窓は、正面には大きな吹き抜け部分にとられた大きな窓。
裏側には、1階、2階と同じ形の窓がぴたっと配置されている。
こういうところもビルみたいだけれど、
すっきりしていて美しい。
 
玄関は箱の横面にあり、その上には片持ち状のどっしりとした庇が
横にぐーんと伸び出ている。
その庇と木の塀が合わさって、なんとも立派な和の門のようにも見えるのだ。
 
玄関脇には、地階(裏側からみれば1階)のバスコートから伸びる木が
伸び出ていて、その地階からの吹き抜け部の奥は、
ダイニング脇の掃き出し窓につながるデッキになっている。
密集した住宅地だけれど、高低差や門のような塀などの配置の工夫によって、
バスコートもデッキスペースも、とても落ち着いた、
プライバシーが守られた外空間になっていた。
 
この建築士さん、また小さな住宅を手がけることがあるのかな?
素敵なプロジェクトだった。